ココア、ときどき、抹茶オレ
冬は終わったとはいえ、まだ風が冷たい季節。自販機の前でホットの欄を見ながらどの飲み物にしようか悩む。
隣で一緒に自販機を見る幼馴染の梓は生まれた病院も日にちも違うのに、不思議と傍にいると色々とかみ合うというか、気を張らなくていい自分がいる。
さっき言った悩み事は嘘だ。飲み物を選んでいるふりしてずっと梓の事を考えている。
「あ、なんか考え事してるでしょ?」
にひひっと笑いながら俺の肩をつつく梓は、今日もその手にホットココアの缶を持っていた。
猫舌のこいつはある程度缶が冷めるまで、開けずにいつも手に持っている。
「なんだよ、別に俺が考え事したって変じゃないだろ」
「変じゃないよ。むしろ……」
急にこちらをじっと見つめてきて、内心を見透かされるのではないかとひやひやする。
「なんか急に知的レベルが上がったように見えて、嫉妬しちゃう」
「はあ?見えるってなんだよ、見えるって」
なんて、焦っているのはいつも俺ばかりだ。梓にはこれっぽっちも困らせようという思いは無いのだろうけど。
その手には相変わらず未開封のままのココアを両手で握りしめている。
「つーかお前はいっつもココア飲んでるよな。そんなに好きなの?」
「……うん、すごく、好き」
ふにゃりと笑う顔に心臓が跳ね上がり、しばらく正面から梓の顔を見れなくなったのは絶対誰にも言えない、俺だけの秘密だ。
せめてもの取り繕いとして、なんともなさげに返事をする。明日こそはちゃんと正面から見るからと、自分に言い訳をする。
自販機のココアを見ながらも、指先は迷いなく隣の抹茶オレのボタンを押した。
いっそ抹茶オレが売り切れていたら、ココアを買う言い訳になるのに。梓の手には相変わらずココアの缶が握られている。
次こそはココアを買うのだと、何回目かの決心は今日も果たされなかった。
あたしには幼馴染の男の子がいる。優紀は客観的に見ても性格なんて真逆で、食べ物の好き嫌いも合ったことなんてないのに、不思議とコイツの傍にいると、色々となじむというか、取り繕わなくていい自分がいる。
優紀が自販機の前で珍しくうんうん悩んでいる。いつもコイツは悩むことなく抹茶オレを買っているので、飲み物が原因じゃないのはまるわかりだ。
「あ、なんか考え事してるでしょ?」
気づけたことが嬉しくて、つい笑いながら優紀の肩をつつく。さっき買ったばかりのあったかいココアを手に持ったまま。
優紀は眉をしかめるけど、これはごまかすときの癖だ。
「なんだよ、別に俺が考え事したって変じゃないだろ」
「変じゃないよ?むしろ……」
その悩みの理由があたしだったらうれしいな、とか。言ってみちゃったりして?
なーんて、言えるはずもないんだけど。
「なんか急に知的レベルが上がったように見えて、嫉妬しちゃう」
「はあ?見えるってなんだよ、見えるって」
呆れたような顔をする優紀。コイツの傍にいるとコートなんかいらないぐらい不思議と暖かくなる。
まだまだ熱いココアの缶を握りしめていると、かじかんでいた指もじんわりとほどけていった。
「つーかお前はいっつもココア飲んでるよな。そんなに好きなの?」
好きは好きだけど、いつも飲むってわけじゃない。
優紀と同じものが飲みたくて。でも抹茶が苦手だから抹茶オレに近い気がするミルクココアを飲んでいるのだ。
だから返事には質問の答えとは全然関係ない、あたしの想いを混ぜ込んで。
「……うん、すごく、好き」
「ふーん」と興味なさげに返事をして、結局優紀は抹茶オレを購入した。……まあ、わかってたけど。
心地よいぬるさになったココアの缶を開けると、甘い香りが心を包み込む。このまま優紀も一緒に包まれたらいいのに。
思わず口にぎゅっと力を入れる。
……こんな事、恥ずかしすぎて口が裂けても絶対に言えない。
まずは抹茶を飲めるように頑張ろうかな、と何回目かの決心をする。
そんな俺/あたしの、ココア、ときどき、抹茶オレ
寒い日に自販機で温かい缶を買ったときのじんわりとした手の暖かさを思い出してもらえたら幸いです。




