怪異 母醜
気持ちいい。なんて心落ち着く場所なの。
身体がとても軽い・・・そうここは水の中
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なぜ私がこんな場所にいるのか。
あいつらに無理やり連れて来られたからだ。逆らえば暴言、暴力の嵐。
親や先生に相談しても、何も解決しなかった。
特に親。
やられまくって、疲弊した私にさらに追い打ちをかけ傷をえぐった!
「何もしてないのに、やられるなんてことあるか?おまえも何かしたんじゃないのか?」
「嫌がらせ?そんなの社会に出れば当たり前や。つらいのはあんただけじゃないんやで!!」
「いつまでそんなこと言うてんねん!そんなのは、乗り越えるほど強ならな!そんでいつかはそれを笑い話に出来るようにせなアカンのや!」
・・・あぁ、なんで被害者の私が、こんな強い口調で怒鳴りつけられねばならないのか。
いつかはそれを笑い話に・・・何言ってるだこいつ。いくら時間が経とうと笑えるはずがない。
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学校の奴らに無理やり連れて来られた。この場所はなんだ?
外壁は変色し植物が生え、ゴミが散乱している。
病院?学校?もともと何の建物なのか判別がつかないほどひどい有様。
「きゃあああああ!」
突然、メンバーの一人が悲鳴をあげた。
「マジかよ。マジでいるのかよ」
別のメンバーが声をあげた。その目線の先には、三メートルをゆうに超える肉塊の化け物がいた。
「おい!おまえ、ちょっと見に行ってこい!」
背中を押され、無理やり化け物の前に押し出された。
「・・・!!うっ」
怖い・・・全身がガクガク震え呼吸が荒くなる。
ぐばあああぁぁ!!
肉塊が割れ大きく口を開く。
「何、震えてんだよ!びびりやなぁ」
離れた位置から何言ってる!私と同じ立場に立ってから物を言え!
「はぁ・・・はぁ」
あぁ、ダメだ。一歩も動けない!
「!!?」
突如、私の身体が宙に舞った。そのまま私の身体は化け物の口の中に・・・
後ろから蹴りを入れられたのだ、なんてやつらだ。
「あああっ、あヴあぁ、あうう!」
すっかりパニック状態に陥り、足掻くことしかできなかった。
こういう状況に追い込まれたとき、「助けて~」なんて声出ないんだなぁ・・・
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「怪異 母醜」
化け物の口に飛び込む前、メンバーの一人がそう言っていたのを聞いた。
私は無理やり連れて来られたから、何の目的でココに来たのか知らなかったが
おおよそ、噂のオカルト話が本当かどうか確かめるためだろう。
そして、何かあった時のおとりに私を・・・
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ごぼごぼっ・・
母醜の口から体内に入り込んだ私は、液体の中に勢いよく飛び込んだ。
ごぼっ、ぶくっ・・・
胃か?いや違う。この空間全体が液体で覆われている、体が溶けだす様子もない。
この液体は胃液ではない、水だ。
ごぼっっ
苦しい!息継ぎをする場所がない。私が飛び込んだ場所はすでに塞がれ、出入り口を封じられた。このままでは窒息死する。
その時、私の目の前に一本の肉でできた管が現れた。反対側の管の先は肉壁に繋がっている。
藁をもすがる思いで、管を口に当て呼吸を試みる。
ご、ごぼぼっ!ごぼっ!
無理だ
ごぼぼぼぅぅぅ
あぁ・・・もう無理。
ごぼぅぅぅ・・・
そもそもこの管なに?それにこの場所、胃じゃなかったらどこなの?
全体が水に覆われている空間、一本の肉管、怪異母醜・・・
母・・・まさか
私は管を口ではなく、へそに当てた。
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気持ちいい。なんて心落ち着く場所なの。
身体がとても軽い・・・そうここは水の中
詳しく言えば、怪異、母醜の子宮内。
怪異だから、当然、人間とは体の構造が異なる訳だが
口から子宮に入るなんて、めちゃくちゃだ。
・・・まぁ、そんなことはどうでもいい。
今は、この場所の素晴らしさについて語るとしよう。
子宮内。それは赤ん坊が快適に暮らせるよう設計されている。
呼吸に必要な酸素、栄養は管を通してすべて運ばれる。だから、水中でも全く苦しくないしお腹も減らない。
しかもこの子宮内は軽く泳げるほどのスペースがあり、さらには子宮内の壁が色鮮やかに発光していて、視覚的にもリラックス効果が高い。
「あぁ・・・こんなに心落ち着かせたのは、いつぶりだろう」
怪異の見た目は醜く、おぞましいのに、体内はこんなにも心地いいなんて。
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“わが息子よ、気分はどうですか?”
「!?」
天から聞こえる優しい女性の声色、まるで天使のようだ。
「もしかして怪異、母醜なのか?」
“母醜?人間が名付けた名称ですか。そんな呼び名はやめて、ママと呼びなさい”
「ママ・・・いや、いきなりそんなこと言われても。あなたは私のママじゃない」
“わたくしの子宮に入ったということは、あなたは紛れもない私の子です”
「まぁ、そうなるのかなぁ・・・」
正直、納得などできないが、ここは話を合わせておいた方がいいかもしれない。
“一つ言っておきますが、わたくしの口から入った人のほとんどは胃に送られ、消化されます。子宮に送られるのは、極わずかな選ばれた人だけなんですよ。”
なにそれ、一体どういう体の構造してるの。不思議な生き物すぎる。
“わたくしは、正直あなたの境遇が不憫すぎて・・・ほら、わたくしの口に無理やり押し込まれたでしょう?普段から、ひどい扱いを受けてきたのでは?”
「あぁ・・・まぁ、はい」
“かわいそうに・・・わたくしの子宮で保護する判断は間違ってなかったようですね。”
「あのぅ、母醜?」
“ママ!”
「あぁっ、ママ。ここが子宮ということは、いつか私は生まれて外に出るということ?」
“いいえ”
「いいえ?」
“人間の子宮とは違い、出産の必要がありません。あなたはいつまででもここにいていいのよ。”
「いつまででも・・・」
“悲観する必要はないのよ。ここにはあなたを傷つけるものは一切存在しない。わたくしが母として、ずっと守ってあげる。”
・・・確かに外に出でも。私に危害を加えるクズ達と、理解のない両親。外の世界は痛い、とても痛い。身体的にも精神的にも。
“うふふ、じゃあゆっくりしてね”
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「はぁい、ぬぎぬぎちましょうね~♡」
「・・・えっ!」
しばらく眠り込んでいた私が目を覚ますと、見知らぬ若い女性が私の服を脱がしていた。
「お腹の赤ちゃんが服を着てるなんておかしいでちゅよ♡ぬぎぬぎ~」
「ちょ、ちょっと!」
あっという間に、私は一糸まとわぬ姿にされてしまった。
「誰だ、あんたは?」
「わたくし?あなたのママですよ」
「もしかして母醜!?」
なにがどうして母醜が、人間の女性の姿で自分の前に現れているのか。しかもここは母醜の子宮内。母醜の体内で母醜に会っている、ますます意味がわからない。
「なにがどうなってる!?」
「落ち着いて、一つずつ説明するわ。」
・・・・・・
「疑似餌?」
「そう、わたくしは母醜の疑似餌として作られました。」
「疑似餌って、チョウチンアンコウの光のアレか」
「そう、それの人間版がわたくし。若く綺麗な女性の姿で人間を誘い、本体の大きなお口でがぶっ!」
・・・
「・・・というのは実は昔の話で」
「今は使われてないと?」
「その通りです。最近は昔よりも、引っかかる人間がめっきり減ってしまって。」
疑似餌はがっくりとうなだれた。
「なので昔の産物として、残っているだけの状態です。でも丁度良かった、この姿の方が、親近感が沸いて安心できるでしょう。」
疑似餌、人間を誘い込むために作られただけあって、見た目、体の動き、全く違和感がない。
「疑似餌って本来、体外にあるものでは」
「もう使わなくなったので、体内に保管してるんですよ。」
体内に保管・・・相変わらず、どういう体の構造してるのか・・・
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また、どれくらいの時が経っただろうか。
最初は裸にかなりの抵抗感を感じていたが、今はすごく開放的で清々しい。
産まれたままの姿、直接肌に伝わる周囲の水の感覚・・・
服を着ている方がむしろ気持ち悪い。
”きゃあああああ!”
!?
聞き覚えのある声が、外から聞こえる。
私をこんなところに連れてきたメンバーの一人だ。
”やっべぇ!また会えるなんてな。”
気が付いたら、私の腕は震えていた。奴らの声は、過去の私に対する仕打ちを否が応でも思い出させる。
「ぁぁっ・・ぁ」
「大丈夫よ、わが息子よ」
背後から、母醜の疑似餌が優しく私を抱きしめた。
「誰もあなたを傷つけない、傷つけさせたりしない」
疑似餌だが、人と同じように体温があり、血も通っているようだった。
人肌のぬくもり・・・いつ以来だろうか。
「安心して、ここにいていいのよ」
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「なにこいつ、全く動かないよ」
「死んでんじゃねーの?」
母醜を見つけて数十分、母醜は全く動かないどころか呼吸すら感じられない。
「おい、どうした?」
スマホで呼びだした、他のメンバー達がぞろぞろと集まって来た。
「母醜だ。だけどよ、前と違って全く動かねぇ」
「ほんとか?」
メンバーの一人が細長い木の棒を持って恐る恐る母醜に近づく。
「・・・おらっ、おら」
棒の先端が軽く突いてみるが、やはり反応がない。
「死んでる・・・?もしくは寝てる?」
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「あら、わが息子よ。泣いてるの?」
「えっ・・・」
ここは羊水の中。泣いたとしても涙は流れない。
大声で泣いても声は外の奴らには聞こえない。
「泣いてるのか・・・なぁ・・・正直水の中だから自分でもわからない」
「あなたは泣いてるわ、ママはすべてお見通しよ。だけど、悲しくて泣いてるんじゃない。そうでしょ?」
疑似餌は、強く私を抱きしめる。
「私の本当の母親はやられた時、こうやって慰めてなんてくれなかった。そんなことは世の中いくらでもある、つらいのはあんただけじゃないと・・・」
「・・・ひどい母親ね」
「挙句の果てに、あんなクズみたいなメンバーの擁護までし始めた。あんたが何かやったからじゃないのって」
「・・・そんなことない。あなたはちっとも悪くない。」
疑似餌は続ける。
「あなたが悪いことをしたという前提で話をしてるのね。自分の子に対する信用の欠片もない。あなたは過去、親の信頼を裏切るようなことをしたの?」
「いいえ全く」
「・・・・・・もう言葉もでないわ」
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あれからさらに数分が経過した。
「ほんとに死んでる・・・?」
依然として動きが見られない母醜に今だに残る警戒、恐怖心。
「おい、触って確かめてみろ。ほんとに死んでるかどうか」
「はぁぁ?ふざけんなキモロンゲ!触ろうとしたところを“ガブっ”ってされるのがオチだ!触るんならおまえがやれよ」
「・・・いいだろう、やってやるぜ!」
「おおおおっマジで!男らしいなぁ」
メンバーの一人、キモロンゲが恐る恐る母醜に近づく、そして・・・
「・・・どうだ。触ってるぜ」
「「「おおおっ!」」」
キモロンゲが母醜の身体に触れると同時に歓声があがる。
「冷てぇなぁ、本当に死んでるようだぜ!」
「マジで?マジで死んでる?」
「ビビりだなぁ!よく見とけ」
ドン!!
「「「うわああっ!」」」
メンバー達の悲鳴が響く、キモロンゲが母醜の身体に蹴りを入れたのだ。
ドン!!ドン!!ドン!!
何発も蹴りをいれられる母醜だが、それでも反応は見られない。
「どうだおらっ!もうキモロンゲなんて呼ばせねぇ!」
「すげええな、おまえ!」
安全を確認した、メンバー達がキモロンゲの前に集まってくる。
「さぁリーダー、あんたもやってくれよ」
「は?俺が?なんで」
「キモロンゲができて、リーダーができないんすか?クソださチキン野郎じゃないですか。リーダー、あんた口だけの男なんすか?」
「ああん!!なんだとおらっ!いいだろうやってやんぜ!!」
もう安全なのはキモロンゲで証明済み。リーダーは迷わず母醜に近づき蹴りを入れた。
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ああっ、なんて暖かくて心地いいのだろう・・・
「母醜。あなたが私の本当のママだったらどれだけ良かっただろう。」
「何言ってるの、あなたはわたくしの本当の息子よ。だってあなたとわたくしは、へその緒で繋がっているじゃない。これは本当の親子の証明よ。」
「・・・うん、ありがとうママ。ずっとこうして私を抱きしめていて」
「もちろんよ」
疑似餌はずっと後ろから私を抱きしめ続けてくれている。ああっ離さないで・・・どこにも行かないで・・・お願い。
「あああっ!!あヴあぁ!!あううあああああああああああ!!」
え?何、なんの音?誰の悲鳴?上の方から?
「んふふっ♡捕まえた♡」
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一瞬のできごとだった。蹴りを入れ続けていた俺の視界が急に暗転したかとおもえば、体が落下していた。
何を言っているのか意味が分からないと思うが、そうとしか表現できない。
気付けば俺は、全体がねちょねちょした気持ち悪い場所に落ちていた。
「うわっ、きもっ!俺の服が・・・最悪」
俺は立ち上がり辺りを見渡す。全体が赤い肉で囲まれた気色悪い空間。
そこで俺はようやく理解した。
「食われたのか、母醜に!!」
「そうだ、間抜け」
「誰だ!?」
声のした方を振り向くと、そこにはキモロンゲが立っていた。
「キモロンゲ、おまえも食われたのか」
「ふっ」
キモロンゲが鼻で笑いやがった。何が可笑しいんだこいつ、自分も食われたというのに。
「まだ、気付いてないのかリーダー」
「ああん!?」
「俺の背後をよく見ろ」
言われた通り目をやると、肉の管がキモロンゲの腰付近に繋がっていた。
「なんだよ、その管。」
「キモロンゲはここに来る予定だったか?思い出せリーダー」
そうだ、キモロンゲは以前母醜に会った時ビビり散らかし、あいつが食われた後、もう二度と参加しないと一目散に逃げ出したんだっけか。ションベンまで漏らしてて、大笑いしたもんだが。
そんな奴が今回、LINEで予定も教えてないにも関わらず、急に現れ同行すると言いだし、あの男気を見せた。
「疑似餌・・・使いものにならないと思っていたが、単細胞のバカを騙す程度のことはできる。」
「疑似餌??なんのことだ。おまえは偽物なのか。」
「気付くのがおそい、もう手遅れ」
「は?手遅れ」
「うん、手遅れ」
「え?いやおい、ふざけてんのお前」
「ふざけてるよ。たかが、馬鹿な人間一人食うのに本気になる訳ないじゃん」
「なんやと!」
俺の身体は無意識にキモロンゲに向かって突進していた!
ドン!
「うっ!」
重い衝撃と共に、みぞおちが熱くズキズキし・・・一瞬呼吸ができなくなる。俺はたまらず、その場に膝をついた。
キモロンゲのパンチがみぞおちに入ったようだ。
「げぼっ、げぼうぅっ!!」
パンチが見えなかった。早いし、パワーもある・・・
キモロンゲが、こんなに強いはずがない。奴はどちらかというとインドアのオタク系。
鍛えてなんかいない。
「暴れられて、胃の中を傷つけられたら堪らん。大人しくしててもらおう。」
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“やめろ!!やめろよ!ボケが!!”
・・・
子宮の外から、聞き覚えのある声が悲鳴を上げている
「もしかして・・・リーダー?」
「そうよ、息子よ。あなたをここに蹴り落した張本人」
私は背後からやられたから、誰に蹴られたか把握してなかったが、やっぱりリーダーだったんだ。
「同じ口から入ったのに、リーダーは違う場所に落ちたの?」
「えぇ、あんな乱暴な人を、デリケートな子宮に入れる訳にはいかない。彼が今いるのは胃。」
“どうしたんですかリーダー!もっと盛り上がりましょうよ。あなた喧嘩大好きだったじゃないですか!いつも威張り散らかしているリーダーはどこに行ったんです?”
“痛てぇ、痛てぇよぉ~、わ、わかった降参だ!参った!もうやめろぉ”
“やめろ?そう言われて、やめた試しがないですよね?リーダー”
・・・
・・・
“やめて・・・やめてよぉ・・・”
その言葉を最後に私の耳は、疑似餌の両手で塞がれた。
「これ以上は聞かなくていい、あなたには優しい世界にいてもらいたいから・・・これ以上は、もういい。」
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誰もあなたを傷つけたりしない。傷つけさせたりしない
・・・
・・・
わたくし以外は、誰も・・・
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リーダーの一件があってから、またしばらく時間が経った。
ずっと、この羊水の中でプカプカ。なんの不自由もない、苦痛もない。
そしてかわらず、私を抱きしめてくれる女の疑似餌。
この人肌のぬくもりが堪らなく心地いい。
・・・
もうリーダーはいない。メンバーの連中もさすがに懲りて、ここにはやってこないだろう。
実の両親に会うこともない。
「もう私の脅威は何もない」
「そうよ、わが息子よ」
疑似餌が耳元で囁く
「誰もあなたを傷つけたりしない。傷つけさせたりしない」
そう誰も私を傷つけるものはいない。
「・・・・・・わたくし以外は、誰も」
「えっ?」
疑似餌の一言に私は目を丸くする。
「・・・わが息子よ。わかっているでしょう。あなたはもうここから一生出られない」
「うん、そうだねママ」
「怪異とはいえ、わたくしは不死身じゃない。いつかわたくしを倒すものが現れるかもしれない。そうなったら物理的には出られるかもしれない。けど・・・」
疑似餌は言いづらそうに続ける。
「あなたはここに長く居すぎた。へその緒から直接、栄養を貰っているあなたはすでに、消化器官が退化してしまっている。つまり食事をとっても栄養が吸収されない。」
「筋力も落ちてるわ、あなたは外に出たら立つこともままならないでしょう。」
「そして最大の問題は呼吸。肺の機能もだいぶ衰えているから、外に出たら呼吸がままならず、窒息死してしまう可能性が高い」
・・・・・・
「わたくしは、あなたに傷ついてほしくない。その気持ちは本当。それは信じて欲しい。」
疑似餌がより強く私を抱きしめた。
「長い間あなたを見ていて思ったの。四六時中、羊水の中でプカプカ浮かんでぼんやり過ごす。これは生きているといえるのか・・・死んでいるも同然じゃないのか」
「親であるわたくしが、もし倒された時、息子のあなたも道連れになる。それは親として望ましいことじゃない。」
「甘やかしすぎたんだわ・・・もう自立することができない状態にわたくしはあなたを追い込んでしまった。」
「・・・それはある意味、あなたを傷つけることになったんじゃないか・・・と」
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私が小学生の時、ある漫画の本を見て衝撃を受けたことがあった。
それは魚の生態についての本。
「へぇ、チョウチンアンコウのオスは、メスの身体の一部になるんだ!」
チョウチンアンコウのオス。
大きな体のメスと比べ、オスはその約10分の1。
暗い深海でメスを見つけると、体をくっつかせメスと同化する。
同化後は血管がメスと一体化し、メスから栄養を貰うのだ。
オスは「精子バンク」
メスに精子を提供するためだけに存在する。
オスは何もしなくていい。一日中だらだら過ごすことができる。
「へえぇぇ、楽できていいなぁ。私もチョウチンアンコウのオスになりたいなぁ」
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「ママ、そんなこと気にしなくていいんだよ。僕は昔から、何かを成し遂げるつもりもなければ、やる気なんて一切ない!」
「目標をもたねばとか、夢を持てとか、私にとって煩わしい以外の何物でもない。やりたければ勝手にどうぞ、私はそんなのに興味なんてない。」
「だから、気にしなくていいよママ。今が一番、私にとって幸せだ。」
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あれから、またしばらく経った。
わが息子の下半身は同化され、上半身だけが肉壁から出ています。
その上半身を愛おしそうに抱きしめる、女の疑似餌。
内臓は完全に退化し機能を失いました、もう必要ありません。
息子は言葉も失いました。だがもう、必要ありません。
「あはっ気持ちいい♡」
「ん~んふぃ♡」
同化した生殖器が刺激され、射精を促す。
同化し感覚が共有されているため、わたくしも息子も同じ快感を感じる。
もしかして、怪異の子供ができちゃう?
そんな話は聞いたことないけど、そうなったら面白そう。もしそうなったら・・・
怪異でいっぱいの世の中にしよう!あなたと同じ苦しみを持つ人を救ってあげよう。
「ん~~んぅふぃ♡♡」
「うふふっ、喜んでる可愛い♡」
わたくしは、優しく息子の頭を撫でた。
「わが息子」
・・・
「・・・いいえ、旦那さま♡」




