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魔女の末裔、婿が必要なので魔法を使って婚活してみた  作者: ぽよみ30号


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2/5

魔法で婚活、始めました

「お母さん!私、婚活始めたい!」


その夜、家に帰った秋奈はキッチンで夕飯を作っている千夜ははに大声で話しかけた。


「秋奈、婚活は進研ゼミじゃないのよ?」


まだ娘が正気に戻っていないと思った千夜はまともに相手にしなかったが、秋奈は両親が経営している医院の方へと走っていった。


「へっへっへ、あったあった!」


秋奈は医院の中の一つの部屋に入り、月詠家に伝わる「三種の神器」を全て掴んだ。


月詠家のルールとして、神器は勝手に持ち出してはいけないことになっている。


しかし秋奈はまるで獲物を盗み出す怪盗にでもなった気分で、神器を持って自室に戻った。


「さあて、どうしよっかなぁ」


秋奈はテーブルの上に並べた三つの神器を眺めながら、あの「鷹宮さん」を自分に惚れさせる作戦を考え始めた。


神器は次の三つ。


古ぼけた鏡の「満月鏡」。

一振りの日本刀の「新月刀」。

そして拳ほどの大きさで、ダイヤモンドのように輝く勾玉、「三日月ノ玉」。


月詠家の魔女はこれらの「神器」を使うことによって、三種類の魔法を使うことができるのだ。


「やっぱ王道はこれかな?一番得意だし」


秋奈が手に取ったのは、満月鏡。

この古ぼけた鏡は「姿を変える」魔法が使える。


例えば自分の姿を「絶世の美人」に変えれば鷹宮の気を引けるし、「透明人間」に変えれば、鷹宮に気づかれずに彼の情報を集められる。


さらに幻影を作り出して相手に見せることもできるので、一緒に過ごす部屋のムードを変えたりすることもできる。


三種の神器の中で秋奈が最も気に入っており、使うのが上手な神器でもある。


新月刀かたなは……使えるタイミングはないかも?」


秋奈がチラリと見た新月刀は、対象者の「身体能力を上げる」魔法が使える。


医院では体が弱っていたり怪我をした患者に使うため、最も出番が多い神器だ。


しかし自分や鷹宮の身体能力を上げても、恋愛の役には立たないだろう。


秋奈は刀を手に取ることはなく、最後の神器である「三日月ノ玉」を掴んだ。


「これは最終手段だね……!」


三日月ノ玉の魔法は、「自分の言葉を真実にする」魔法。


例えば秋奈が鷹宮に「あなたは私のことが好き!」といえば、鷹宮は秋奈のことが好きになる。


これさえあれば恋愛においては一瞬で全てが解決するようにも思えるが、重大な欠点がある。


「でも効果が切れちゃったら終わりだからなぁ……」


そう。三日月ノ玉の効果は長くない。

長くて3日で、相手にかけた洗脳が強引なものであればあるほど、効果時間は短くなる。


仮にこれで無理やり惚れさせてもすぐに効果が切れて鷹宮の洗脳は解け、その後の自分の感情や客観的な状況に矛盾があると、「なぜ自分はこんな女と?」となってしまう。


そうなってしまえば、洗脳前よりも魔女あきなへの警戒心が強くなって、この恋愛は失敗に終わってしまう。


医院では精神的な不調を抱える患者の治療に使う道具だが、長期の恋愛においては使うのは難しい。


「うーん、とりあえず満月鏡かな?いやでも絶世の美女に変身しても、それが偽物なら意味ないし……」


そう。仮に満月鏡で絶世の美女となり恋愛を続けても、結婚まで考えているのであればいずれは真の姿を晒す必要があるので意味がないし、永遠に自分の姿を偽るのは嫌だ。


偽物の幸せは、心を虚しくするだけだ。


「うーん、どうしよう!?全然思いつかない!」


魔法があれば余裕!と考えていた秋奈だが意外と上手くいかないことに気がついてしまった。


そもそも、自分には恋愛経験がない。

10歳の頃に初めて神器を触って自分の魔力の光が月光色だとわかった日から、ひたすら「月詠の魔女」としての魔法の練習と、医者になるための受験勉強に打ち込んできた。


そのため、秋奈には恋愛経験どころかまともに男子と話した記憶も少ない。


「あれ?秋奈、何してんの?神器なんか持ってきちゃってさぁ」


秋奈が頭を悩ませていると、部屋のドアを開けて一人の女が部屋に入ってきた。


夏姉なつねえ……帰ってきてたの?」


────────────────


部屋に入ってきた女性は、秋奈の姉の夏波なつは


茶色く染めた髪と、パッチリと決められたメイク。派手な印象はあるが、もともと美人ということもあって化粧がよく映えている。


年齢は秋奈の3つ上なので、21歳だ。

今は実家を出て、都会でフリーターをしている。


「お母さんからさぁ、秋奈あんたの気が狂ったから助けてくれってメールが来たんだよね」


夏波はそう言って、折りたたみ式の携帯電話の画面を開き、秋奈に見せた。

その携帯は最新機種で、3年前の機種を使っている秋奈はそれを羨ましく思った。


そして夏波の携帯の画面には、大学を落ちてからここ数ヶ月の彼女の奇行が書き連ねられており、秋奈は恥ずかしくなった。


「も、もう治ったから……大丈夫だよ」


「ふーん、まあいいや。ところで何してたの?」


夏波は割と適当な性格である。

だから母の心配ごとよりも妹が魔法を使って何かをしようとしているという、面白い状況に興味が湧いていた。


「実は……」


秋奈は状況を説明した。


「あっはっはっはっはっは!!!ちょ、秋奈!!あんた、面白すぎぃ!!なるほどね、医者の旦那がいりゃあ、『月詠の魔女』のお勤めは果たせるもんね!!あはははっ!!!」


夏波は床に這いつくばり、床を手でバンバンと叩きながら大笑いした。


「ちょ、私は本気なんだよ!私がどれだけ、子供の頃からその『月詠の魔女』って言葉に苦しめられたか……!」


「あー、ごめんごめん。後継あとつぎサマは大変だよねぇ、ククク……!」


夏波は謝りつつも、まだ馬鹿にしているように笑いながら秋奈の顔を見た。


夏波の魔力は燃えるように赤い夕焼け色。

彼女は月詠の魔女には選ばれなかったが、むしろ選ばれなかったことで自由を得て、刺激を求め人生を楽しんでいるような性格だった。


「でも秋奈、そういうことならお姉ちゃんに任せておきなさい」


「へ?」


「あなた、私が恋愛マスターだってことを忘れたの?」


「あっ……ああ!そうじゃん!夏姉なら……」


夏波は小学校高学年から今日まで何人もの彼氏を作り、その綺麗な顔をいいことに様々な男と付き合っては捨て、付き合っては捨て、を繰り返してきた。時には同時に何人も付き合っていた。


良い悪いはともかく、夏波は秋奈よりも圧倒的に恋愛経験があるのは確かだ。


「夏姉は、これまで何人と付き合ったんだっけ?」


「さあ?指よりは多くて髪の毛よりは少ないことしかわかんない」


「さっすがあ!それなら確かに恋愛マスターだね!」


「そういうこと♪そんな剣道男の一人や二人、バッチリ落とせるように私がアドバイスしてあげる」


秋奈は今日ほど、夏波を頼もしく思ったことはなかった。


幼い頃の夏波は自分や冬子に妙なイタズラを仕掛けては、母や春華に怒られている問題児という印象しかなかったからだ。


「こ、恋の話をしてる……?」


一人の少女が、秋奈の部屋に入ってきた。


「あ、ふーちゃん。どうしたの?」


彼女の名前は冬子。

彼女はまだ高校生で、この家で暮らしている。

彼女の魔力は海のような瑠璃色。

夏波と同じく「月詠の魔女」には選ばれなかった娘だ。


お菓子やジュースが好きな彼女は、姉たちに比べてふっくらしている。

しかし姉たちと同じく顔のパーツは整っており、秋奈は「ふーちゃん」と呼んで彼女を可愛がっていた。


しかし春華と夏波には「ブー子」という不名誉な渾名で呼ばれており、冬子はそれを少し気にしていた。


「わ、私も、恋の話、聞きたい……」


少女漫画が好きな彼女は、隣の部屋から聞こえた恋の話に反応してやってきたのだ。


「いいよ、ブー子も聞きなさい。この夏波様の授ける、魔法を使った恋の大作戦をね!」


───────────────────



「……ん?」


鷹宮昴タカミヤスバルは夜、部屋の中に妙な気配を感じて目を覚ました。


彼はアパートで一人暮らしをしており、そこから大学に通っていた。


この部屋は六畳一間で狭いものの、部屋は眠れれば十分、と考えている彼はこの部屋を気に入っていた。


「わ……しは……な……つま……になる……す……」


「なんだ……?」


昴はベッドから体を起こした。

確かに、何かが聞こえた。

女の声のようなものだ。


「わた……は……あきな……たの……になる……女……す……」


「え?んん?」


徐々にその言葉はハッキリとしていく。

昴は耳を澄ませた。聞こえたのは確かに女の声だ。


しかし部屋の中には誰もいない。


「だ、誰だ?」


昴が不安になりながらそう言った。

幼い頃から厳しい剣道の稽古を重ねた彼だが、超常現象への対応は初めてだった。


そして次は、耳元で囁かれるようにその声は聞こえた。


「わたしはつくよみ、あきな……あなたの妻になる女です……!!」


「ヒェッ!!」


突然、耳元で聞こえたその声は恐ろしい内容だった。


昴は現在自分に起きていることを冷や汗をかきながら必死に考え、状況を整理した。


「幽霊に求婚されてる……!?」


「なっ……!?違いますよ!」


「幽霊」という言葉が心外だったのか、その声の主は怒ったような声をあげた。


そして次の瞬間、昴は驚愕した。


突然、何もいなかった場所が光り輝き始めたのだ。

暗い部屋の中で丸く光るその光は、まるで夜空を照らす満月のようであった。


「えっ!?えええええ!?」


昴はさらに驚愕した。

その光の中から、一人の女が現れたのだ。

薄黄色のワンピースに身を包んだ、髪の長い少女だった。年齢は18歳ぐらいだろうか。


彼女は楽しそうな笑顔を浮かべ、昴の目を真っ直ぐに見つめてくる。


「ふふん、透明になっていたんです。私!」


どうやら幽霊ではなく、透明人間が自分の部屋に潜んでいたらしい。


「こんばんは、鷹宮昴さん。私は月詠秋奈。魔女です!」


「ま、ま、まじょ……?」


「ええ。魔法で透明になって、大学から帰るあなたの後をつけて、部屋に忍び込んで、さっきまでずっと待ってました!」


「魔女」はニコニコと笑いながら、自分の犯行を自白した。

警察は魔女も逮捕してくれるのだろうか。

この国の法律は魔女にも対応しているのだろうか。


昴はそんなことを考えながら、楽しそうにクスクスと笑う彼女を見つめていた。


「改めて自己紹介しますね!」


魔女はクルリと一度回転してから昴に向き直り、胸に手を当てて言った。


「私は月詠秋奈!あなたの妻になる女です!」


昴は驚愕しあんぐりと口を開けながら、嬉しそうに笑っている魔女の顔を見つめた。


幽霊が出たと思っていたら、透明になった魔女にストーカーされて部屋に侵入されて求婚された。


そんな状況で、彼は思った。


(幽霊の方が……マシだッ!!)


☽ あとがき ☾


満月鏡で体を透明にして昴の部屋に侵入した秋奈は、彼が布団に入るまでずっと昴の生活を観察していました。


部屋に帰った昴はすぐに掃除や洗濯を始め、難しい医学書を開いて勉強を始めました。

それを見た秋奈は彼がとても几帳面で、真面目な性格であることがわかり、彼のことがますます好きになりました。


そして昴をさらに好きになってしまった秋奈は自分の姿が透明なことをいいことに、勉強している彼の顔を10センチほどの距離で凝視したり、彼の髪の匂いを嗅いで肺を満たしたりして過ごしました。


そう。

この世で最も恐ろしい存在は、「恋する乙女」なのです。

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