第九十八話「風の銀河と、麦畑の『一粒の祈り』」
その年の秋、エルデンベルク王国の広大な麦畑は、収穫を前に、病害虫の被害に遭い、深刻な危機に瀕していた。農民たちは、魔法士団に助けを求めたが、広範囲の病害には、強力な魔法をもってしても、効果が薄かった。
王城の誰もが、収穫量の激減を憂う中、シャルロッテは、一人、モフモフを抱き、夜明け前の麦畑に立っていた。空には、無数の星々が、銀色の砂のように、清らかに輝いていた。
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シャルロッテは、病に侵された麦の穂に、そっと触れた。彼女の目には、麦の一本一本が、生きたいと、ごく微かな、切実な光を放っているのが見えた。
彼女は、この麦畑を救うためには、広大で強力な力ではなく、最も小さな純粋な献身が必要だと悟った。
シャルロッテは、麦畑の真ん中に、静かに膝をついた。そして、自分の持つ全魔力を、ただ一つの目的に集中させた。それは、「この麦畑を救う」という大きな目標ではなく、「目の前の、この一本の麦の穂だけを、完全に癒やす」という、極めて小さな、純粋な行為だった。
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シャルロッテは、光属性の治癒魔法を、自己の魔力の、最も純粋な核から引き出し、麦の穂に流し込んだ。
その献身的な行為は、まるで、銀河の光が一粒の麦に注ぎ込まれるかのように、静かで、厳粛な美しさを伴っていた。彼女の魔力は、自己を犠牲にするように、麦の穂の病を完全に受け止め、昇華させた。
その麦の穂は、一瞬、虹色の光を放ち、病を克服した。
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その後、シャルロッテは、その場を立ち去った。彼女は、広大な麦畑全体に魔法をかける力を持っていたが、それはしなかった。彼女の行為は、あくまで、一粒に対する献身で終わった。
しかし、その翌日。麦畑には、驚くべき奇跡が起こっていた。
シャルロッテが癒やした一本の麦の穂から、温かい生命の魔力が、波紋のように周囲の麦へと伝播し、畑全体が、病害から回復し始めていたのだ。
「奇跡だわ! こんなことは、魔法理論では絶対に説明できない!」と、マリアンネ王女が驚愕した。
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その日の午後、農民たちは、回復した麦畑を見て、涙ぐみ、王城に感謝を伝えた。彼らは、この奇跡が、王女の「一粒の祈り」から始まったことを知る由もなかった。
アルベルト王子は、妹の行った、最も小さな献身が、最も大きな成果を生んだことに、深く感銘を受けた。
「シャル。君は、あんな小さな一粒に、自分の全てを捧げた。なぜ、そこまでできるのだ」
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「だってね、兄様。麦の穂が元気になるとね、わたしも心がポカポカして、美味しいパンが食べられるでしょう? みんなが幸せなのが、一番、私の幸せなんだよ!」
シャルロッテの純粋な献身は、自己犠牲ではなく、「他者の幸福を、自分の幸福として受け取る」という、最も純粋な愛の法則だったのだ。




