第九十七話「騎士団の『鉄壁の防御』と、シャルの笑顔の原則」
その日の午後、王城の騎士訓練場は、重い空気に包まれていた。第二王子フリードリヒが率いる騎士団の精鋭チームは、新しい「鉄壁の防御陣」の訓練に挑んでいたが、チーム内の人間関係の不和から、連携が全く取れずにいた。
個々の騎士の力は強いが、互いに信頼し合えず、防御陣には大きな「隙間」が生まれていたのだ。フリードリヒは、剣術の技術では解決できない、人の心の問題に頭を悩ませていた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、訓練場の端からその様子を見ていた。彼女の目には、騎士たちの防御陣が、「個人の傲慢さという名の、尖ったトゲ」で互いを遠ざけ合っているように見えた。
「ねえ、フリードリヒ兄様。あの防御陣、全然可愛くないよ。みんな、心で握手してないんだもん」
フリードリヒは、妹の言葉にハッとした。彼は、技術指導ばかりに気を取られ、団員一人一人の内面に興味を持つことを忘れていた。
シャルロッテは、フリードリヒに、「人から好かれるための、最も可愛い原則」を教え始めた。
「ね、兄様。人が可愛くなるにはね、三つの魔法を使うんだよ」
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【第一の魔法:笑顔の力】
「まず、世界一可愛い笑顔を見せるの! 笑顔はね、『あなたに興味がありますよ、関心がありますよ、一人じゃないですよ』っていう、魔法の言葉なんだよ!」
フリードリヒは、妹の助言に従い、真剣な顔を崩し、不器用だが心からの笑顔を騎士たちに向けた。騎士たちは、指導者の笑顔に驚き、一瞬で緊張が解けた。
【第二の魔法:名前の力】
「次に、騎士さんたちに、『あなたにとって一番可愛いこと』を聞くの! そして、『その騎士さんの名前』を、優しく呼んであげるの!」
フリードリヒは、妹の言葉に従い、団員一人一人に、「週末に何をしているのか」「一番好きな剣の型は何か」といった、個人的な興味を示し、彼らの名を親し気に呼んだ。騎士たちは、指導者が自分たちの名前を呼び、さらに「人となり」に関心を持ってくれたことに、深く心を動かされた。
【第三の魔法:愛の共感】
「最後に、みんなのトゲトゲの気持ちを、ふわふわのモフモフで、優しく溶かしてあげるの!」
シャルロッテは、モフモフを騎士団の真ん中に放った。騎士たちは、モフモフの究極のふわふわに触れ、互いの緊張が解け、自然と笑い合った。
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フリードリヒは、妹の指導原理が、人間関係の構築という、最も難しい問題を、最もシンプルな形で解決することに驚愕した。
その日の午後、騎士団は再び「鉄壁の防御陣」の訓練に挑んだ。今度の防御陣は、技術的な指導はほとんどなかったが、騎士たちの間に、揺るぎない信頼と共感が生まれていた。防御陣の隙間は消え、彼らの連携は、驚くほど強固になった。
アルベルト王子が、その様子を見て、感銘を受けた。
「フリードリヒ。君は、最高の防御陣を築いた。それは、技術ではなく、信頼という、人間的な資本で築かれたものだ」
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、可愛い心は、誰にも破れないんだもん!」
シャルロッテの「可愛い」という哲学は、人間関係の構築という、大人の問題を、愛と共感のシンプルな原則で解決したのだった。




