第八十四話「夏の図書館の木漏れ日と、銀髪を透かす『一瞬の透明感』」
その日の午後、王城の図書館は、夏の強い日差しにもかかわらず、高い窓から差し込む光が、空気中で幾重にも折り重なり、透明感のある、涼やかな空間を作り出していた。
マリアンネ王女は、窓際の席で、難解な古書を読みながら、集中力の限界に達していた。暑さと、研究の難航が、彼女の顔に微かな疲労の色を滲ませている。
◆
シャルロッテは、モフモフを抱いて、マリアンネの席にやってきた。彼女は、日差しの強い角度に座り、その横顔には、汗の粒が光を反射して、小さくキラキラと輝いている。
「お姉様、休憩しなきゃ! こんなに暑いのに、頑張りすぎだよ」
マリアンネは、眼鏡の奥で、妹の汗の粒が放つ、瑞々しい生命の輝きに目を奪われた。彼女の疲れが、一瞬、どこかへ吹き飛んだように感じられた。
◆
シャルロッテは、マリアンネの頭上を見上げた。窓の外の木々の葉が、風に揺れ、マリアンネの顔に、光と影のモザイクを絶え間なく作り出している。
シャルロッテは、風属性魔法を応用し、窓の外の木々の葉を、ごく繊細に操作した。
彼女の魔法は、葉の動きを、一瞬だけ止めた。
光のモザイクが止まった瞬間、強い夏の光が、マリアンネの銀色の髪を、完全に透過し、彼女の頭部の形を、光の輪郭として描き出した。
その一瞬、マリアンネの存在は、まるでフィルムの中で切り取られた、完璧な透明感を持つ美しさを放った。
◆
マリアンネは、その現象に気づかなかったが、その光の美しさを、図書館の静寂の中で、無意識に感じ取っていた。彼女の疲労は消え、心が静かに満たされるのを感じた。
シャルロッテは、再び風を流し、葉の動きを元に戻した。全ては、一瞬の、誰にも気づかれない美学だ。
「ね、お姉様。もう、頭、熱くないよね?」
マリアンネは、妹の言葉に頷き、妹の汗の粒を、そっと拭ってあげた。
「ありがとう、シャル。あなたの隣にいると、私の頭の中も、夏の午後の透明な水のようになるわ」
◆
その後、二人は、城下町の人気店で売っている、冷たい果実水を飲むために、図書館を出た。
シャルロッテが階段を降りる際、彼女のパステルカラーのドレスのフリルが、光を浴びて、生き生きとした躍動感を持って、風に揺れる。その姿は、まるでアニメーションのワンシーンのように、瑞々しい輝きを放っていた。
マリアンネは、妹の「可愛い」という存在そのものが、世界のすべての風景に、情感と生命の輝きを与えていることを、深く感じた。
夏の午後の図書館は、シャルロッテの純粋な優しさによって、一瞬の「透明な美しさ」に満たされたのだった。




