表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/87

第六十九話「薔薇と光と、三女殿下の『愛と美と可愛い』論」

 その日の午後、シャルロッテは、王城の温室の片隅で、一人静かに座っていた。彼女の周りには、色とりどりの花々が咲き誇り、空気は甘い香りに満ちている。


 シャルロッテは、自分の哲学の根幹をなす、三つの言葉について考えていた。

 それは、「愛」と「美」と「可愛い」だ。


 彼女は、テーブルの上に、それぞれを象徴するものを並べた。


 「愛」の象徴として、ルードヴィヒ国王とエレオノーラ王妃の結婚記念に贈られた、一輪の純粋な白い薔薇。


 「美」の象徴として、イザベラが持っている、完璧なカットが施された透明な宝石。


 そして、「可愛い」の象徴として、モフモフ。



 シャルロッテは、まず「美」を象徴する宝石を手に取った。


「宝石は、きらきらして、とっても綺麗。でもね、触ると冷たいの。誰も傷つけないけど、誰も温めないよ。宝石は、()()()()()()()()()()()()


 次に、彼女は「愛」を象徴する白い薔薇を見た。


「薔薇は、愛だよ。パパとママの愛のように、温かくて、優しい。でもね、薔薇には、トゲがあるの。愛は、時々、チクッて痛いのよ」


 そして、彼女は「可愛い」の象徴であるモフモフを抱きしめた。モフモフは、彼女の腕の中で、幸せそうに喉を鳴らした。


「モフモフは、可愛い。モフモフは、温かい。そして、トゲがない。可愛いって、なんだろう?」



 シャルロッテは、ここで、光属性魔法を応用した。


 彼女は、薔薇と宝石とモフモフの三つに、それぞれ異なる波長の光を当て、その「本質」を可視化しようとした。


 宝石は、鋭い、しかし均質な青白い光を放った。

 完璧だが、冷たい。


 薔薇は、温かく、しかし複雑な、揺らぎのある赤い光を放った。

 情熱的だが、不安定だ。


 そして、モフモフは、ごく穏やかで、しかし広範囲に広がる、虹色の柔らかな光を放った。

 それは、周りのすべてを包み込み、決して傷つけず、ただ肯定する光だった。



 シャルロッテは、その光の現象を見て、「愛と美と可愛い」の三位一体の真理を悟った。


「わかった! 美は、完璧さで、頭で見るもの。愛は、情熱で、心で感じるもの。そして、可愛いはね……」


 彼女は、モフモフの放つ光を、宝石と薔薇に浴びせた。

 すると、宝石の鋭い光は丸くなり、薔薇のトゲの影は消えた。


 「可愛いはね、『愛と美が、誰にも傷つけられないように、ふわふわの光で包まれたもの』なんだよ!」


 彼女は、「可愛い」こそが、愛の持つ不安定さと、美の持つ冷たさを、最も優しく、そして普遍的な形で昇華させた、究極の感情だと結論づけた。



 その日の夜、アルベルト王子は、妹の部屋で、その日の考察を聞いた。


「シャル。君の言う通りだ。我々が追い求める王国の理念は、まさしく、君の言う『可愛い』という、普遍的な優しさに集約されている」


 シャルロッテは、兄に、白い薔薇を差し出した。


「だからね、兄様。難しいことを考えるのは、もうおしまい! 可愛いことだけを考えよう! そうすれば、みんな、幸せになるよ!」


 シャルロッテの純粋な「可愛い」の哲学は、王国の最も深遠な真理となり、愛と美を優しく包み込んだのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ