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第六十八話「城の大きな池と、きらめく『慰めの湖』の命名」

 エルデンベルク王城の広大な庭園の奥には、人工的に造られた、静かで大きな池がある。周囲は美しい木に囲まれ、水面には、王城の白い優美な塔の影が逆さまに映っていた。


 しかし、王族の誰もが、その池をただ「城の大きな池」と呼ぶだけで、特に感慨を抱くことはなかった。


 その日の午後、シャルロッテは、モフモフを抱き、イザベラ王女と共に池のほとりに座っていた。


「ねえ、お姉様。この池、なんだか()()()()()()を抱えているみたい」


 シャルロッテは、水面に映る、逆さまの王城の影をじっと見つめた。その光景は、美しさの裏に、どこか孤独な切なさを秘めているように、彼女の感受性に訴えかけた。



 イザベラは、妹の言葉に驚いた。


「悲しみ? ただの池よ、シャル」


「ううん、違うよ、お姉様」


 シャルロッテは、水面にそっと指を触れた。


「この池はね、城全体が抱えている、難しいことや、悲しいことを、全部映し出しているの。パパの難しいお顔とか、兄様たちの疲れた顔とか。だから、こんなに静かで、切ないのよ」


 シャルロッテの純粋な感受性は、池を、単なる風景の一部ではなく、王家の感情の受け皿として捉えていた。


「だからね、この池には、優しくて、ロマンティックな名前をつけてあげなきゃ!」



 イザベラは、妹の言葉に心を動かされた。彼女は、妹の豊かな想像力が、物事の本質に、どれほどの意味を与えられるかを知っていた。


 シャルロッテは、腕を組み、真剣に考えた。最も感動的で、最も愛らしい名前を。


「決めた! この池の名前は、『きらめく、慰めの湖』よ!」


「きらめく、慰めの湖……」


 イザベラは、そのロマンティックな響きを反芻した。


 シャルロッテは、その名を決めたことに、深い感動を覚えた。


「だって、この池はね、みんなの悲しみを映してくれるけど、夜になったら、お星様をいっぱい映して、きらきら光って、慰めてくれるもの!」



 シャルロッテは、その命名の感動を、すぐに実行に移した。


 彼女は、池の岸辺に、光属性魔法を応用し、夜になると水面に微細な七色の光を投射する「夢の石」を、ごく自然な形で埋め込んだ。それは、夜の水面に、本当に星を映したかのように、きらめく慰めの光を生み出す。


 その日の夕食後、アルベルト王子は、政務の疲れを癒やすために、その池のほとりを歩いた。彼は、妹がつけた新しい名前に、驚きと感銘を受けた。


 そして、夜の闇に浮かび上がる、水面のきらめく光のモザイクを見た時、彼は、妹の豊かな感性が、自分自身の心の奥底にある孤独な感情を、静かに慰めてくれているのを感じた。


「きらめく、慰めの湖……」


 アルベルトは、その名と共に、池を眺めながら、思わず微笑んだ。


 翌日、王族と庭師たちは、この池を『きらめく、慰めの湖』と呼ぶようになった。シャルロッテの純粋な感性が、王家の日常に、また一つ、優雅でロマンティックな風景を加えたのだった。

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