表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/85

第六十七話「凍える貧民街と、雪の夜の『温かい魔法の贈り物』」

 その年の冬は、記録的な寒波がエルデンベルク王国を襲った。王城の中は、温度調整魔法で快適だが、城下町の最も貧しい一角にある、日雇いの人々が住む貧民街は、暖房もまともに得られず、凍え始めていた。


 アルベルト王子は、救援物資の増強と治癒魔法師の派遣を急いでいたが、物資の流通速度には限界があった。


「物資が届くまで、あと三日はかかる。それまで、凍死者が出なければいいが……」と、アルベルトは苦悩した。



 シャルロッテは、その話を聞き、静かに立ち上がった。彼女の王族としての義務感、すなわちノブリス・オブリージュの精神が、優しさという形で呼び覚まされたのだ。


「三日も待てないよ。みんなが凍えちゃうなんて、全然可愛くないもの」


 シャルロッテは、ルードヴィヒ国王とエレオノーラ王妃に、ある大胆な提案をした。


 それは、王家の魔力を総動員して、貧民街全体を、一時的に温めるという計画だった。


「みんなが凍えちゃったら、王族の責任だもん。私たちが、今すぐ、みんなを温めてあげなきゃ!」



 その夜、シャルロッテは、フリードリヒ、マリアンネ、そしてアルベルトと共に、貧民街を見下ろす丘に立った。王家の四人の魔力をもってしても、街全体を恒久的に温めることは不可能だ。


 しかし、シャルロッテは、前世の物理学の知識を応用した。


 彼女は、まず土属性魔法を応用し、街の地面の表面から、わずかに熱を逃がさない絶縁層を生成した。次に、風属性魔法で、街の上空にごく薄い、目に見えない温かい空気のドームを作り出した。これでエネルギー効率を最大にすることができる。


 そして、最後に、王族全員の魔力を、光属性魔法に集中させた。その光は、空に放たれるのではなく、雪の結晶一つ一つに、「温かい光」という魔力を込めることに使われた。


「みんな! この雪が、みんなの心を温める、王家からのプレゼントだよ!」



 雪が、静かに貧民街に降り始めた。


 その雪は、触れると冷たいはずなのに、()()()()()()()()()()()()()()()()、地面に落ちると、凍てついた空気ではなく、()()()()()()()()()()()()()()


 貧民街の住人たちは、不思議な現象に目を丸くした。


 「何だ、この雪は! 体が温まっていく……!?」


 「まるで、天から温かい毛布が降ってきたようだ……!」


 その夜、凍えるはずだった貧民街は、シャルロッテの温かい魔法の雪によって、静かに、安らかに一夜を過ごすことができた。そしてこの暖かい雪は三日三晩降り続けた。



 三日後、物資が届き、アルベルトは、貧民街の住人たちが、昨夜の凍えから解放されているのを見て、安堵の息をついた。


「アルベルト様。天から温かい雪が降りました。まるで、王族の皆様の優しさが形になったようです」と、住人たちは、感謝を伝えた。


 アルベルトは、妹の「冷たい知恵と、温かい心」が成した偉業を理解し、深く感動した。


「シャル。ノブリス・オブリージュとは、法や物資を与えることではない。君のように、最も小さな、目に見えないところに、最大の愛と献身を注ぐことなのだな」


 シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。


「えへへ。みんなが温かく過ごせるのが、一番可愛いの!」


 王族の義務は、この日、一輪の温かい魔法の雪となって、王国の最も暗い場所を、優しく照らしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ