表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/170

第六十五話「給食の焦げたパンと、不満を喜びにする魔法」

第六十五話「給食の焦げたパンと、不満を喜びにする魔法」


 その日の王城では、給仕係が、子供たちの昼食に出すはずだったパンを、窯でわずかに焦がしてしまうという小さな失敗が起きた。パンの表面は少し硬く、黒い焦げ目がついてしまっている。


 給仕係は顔面蒼白で、エマを通じてエレオノーラ王妃に報告した。


「ああ、なんてことでしょう。三女殿下に、こんな焦げたパンをお出しするわけには……!」


 エレオノーラ王妃は、「仕方ないわ、作り直させましょう」と、静かに指示を出そうとした。



 しかし、シャルロッテは、その焦げたパンを見て、目を輝かせた。


「わあ! ()()()()()()()()!」


 王妃や給仕係は、驚いてシャルロッテを見た。


「シャル、このパンのどこが可愛いのですか。焦げてしまっているのですよ」と、王妃は尋ねた。


 シャルロッテは、パンを手に取り、その焦げ目を指でそっと撫でた。


「見て! この焦げ目はね、窯の中の火が、このパンを一番愛してくれた証拠なんだよ! 火がね、『もっと美味しくなーれ!』って、ぎゅーって抱きしめてあげたから、こんな焦げ目の模様がついたの!」


 彼女の視点では、失敗や欠点も、すべては愛と熱意の結果であり、個性的な魅力に他ならなかった。



 シャルロッテは、給仕係の顔を見た。給仕係は、まだ失敗を悔やみ、顔を曇らせていた。


 シャルロッテは、給仕係にパンを差し出した。


 「ね、お兄さん。このパンを焦がしたのは、誰にも負けないくらい、一生懸命パンを焼いてくれたからでしょう? 失敗じゃないよ! このパンを、世界一愛してくれたってことだよ!」


 給仕係は、その言葉に、胸を打たれた。

 彼は、自分の失敗を責めるのではなく、自分の仕事に込めた情熱を、この小さな王女に肯定されたのだ。

 彼の顔に、安堵と喜びの光が灯った。

 その瞳には光るものがあった。



 シャルロッテは、その焦げたパンを、通常のパンよりも美味しそうに食べた。


「ん~! 美味しい! 焦げたところが、なんだか特別なキャラメルみたいな味がするよ!」


 その様子を見ていたアルベルト王子やフリードリヒ王子も、妹の笑顔に引き込まれ、焦げたパンを手に取った。彼らの顔にも、自然と笑みがこぼれる。


 アルベルトは、「確かに、この香ばしさは、通常のパンにはない魅力だ」と、妹のポジティブな発見を論理的に肯定した。


 エレオノーラ王妃は、給仕係に作り直しを命じることなく、その焦げたパンを全員の昼食に出すよう指示した。


 「このパンは、()()()()()()()()()()()として、王城の新しい伝統にしましょう」



 その日の午後、王城の給仕係の間には、「失敗したことは、誰よりも頑張った証」という、新しい教訓が広まった。


 シャルロッテの純粋で前向きな視点は、王城の小さな失敗を、愛と喜びの物語へと変えてしまった。彼女の「可愛い」という感覚は、世界に存在するすべての不満や欠点から、無条件の喜びを見つけ出す、最強の力となったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ