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第六十二話「婚約者の憂鬱と、シャルの『王冠の重さ比べ』」

 その日、エルデンベルク王城には、アルベルト王子の婚約者である、隣国フレデリア公国の王女、エリーナが長期滞在していた。エリーナは、美しく聡明だが、王室外交の重圧と、完璧なアルベルトの隣に立つことへの不安から、人前では常に緊張の仮面を被っていた。


 シャルロッテは、そんなエリーナ王女の持つ、ガラス細工のような繊細な心の揺らぎを敏感に感じ取っていた。



 ある午後、シャルロッテがモフモフを抱いて薔薇の塔の自室に戻ると、エリーナ王女が、ベッドの端に座り、自分の小さな王冠を手のひらに乗せて、じっと見つめているのを見つけた。


「わあ、エリーナ姉様! その王冠、可愛いね!」


 エリーナは、驚いて王冠を隠そうとしたが、シャルロッテの純粋な笑顔に、動きを止めた。


「シャルロッテ殿下。これは、私の王女としての重責の象徴です。あなたには、まだわからないでしょう」


 エリーナの言葉には、結婚後の重い公務への不安と、その重責に耐えられないかもしれないという、弱音が隠されていた。



 シャルロッテは、エリーナの隣に座り、王冠を指さした。


「ねえ、エリーナ姉様。その王冠、重たいの?」


「ええ。とても」


「じゃあ、重さ比べをしようよ!」


 シャルロッテは、自分の頭から、小さな、お気に入りのパステルリボンを外し、王冠の隣に置いた。そして、浮遊魔法を応用する。


「ね、王冠さん。あなたは、どれだけ重たいの?」


 王冠は、シャルロッテの魔力に促され、わずかに宙に浮いた。


 次に、シャルロッテは、自分のパステルリボンを浮かせる。


「リボンさん、あなたは、どれだけ軽いの?」


 リボンは、王冠よりも高く、フワリと宙を舞った。



 シャルロッテは、王冠とリボンを交互に浮かせる。その動作は、まるで遊びのようだが、彼女の瞳は真剣だった。


「ね、エリーナ姉様。王冠は、確かに重たいよ。でも、私のこのリボンはね、『可愛い』っていう、世界で一番強い気持ちでできているの」


 そして、シャルロッテは、王冠に触れ、光属性魔法と水属性魔法を応用した、特別な魔法をかけた。その魔法は、王冠の重さを消すのではなく、王冠を被る者の『心』を、優しく、温かい光でコーティングするものだった。


「王冠は、重いよね。でも、エリーナ姉様が、一番可愛い自分でいれば、この重たい王冠が、お姉様を一番綺麗にしてくれるの!」



 エリーナは、シャルロッテの魔法によって、王冠が温かい光を放ち始めたのを見て、涙が溢れた。王冠の重さとは、誰かが与えるものではなく、自分が背負うべき誇りであり、その重さに耐えるためには、自分自身の純粋な存在……可愛さ……を肯定することが必要だと気づいた。


「シャルロッテ殿下……ありがとう。あなたのリボンは、私の王冠よりも、遥かに強いのね」


 エリーナは、シャルロッテを抱きしめた。彼女の張り詰めた緊張の仮面は崩れ、初めて心からの安堵の笑顔を見せた。


 この日以来、エリーナ王女は、人前でも以前よりリラックスし、王妃としての重責を、「自分という存在を輝かせるための舞台」と捉えることができるようになった。シャルロッテの純粋な愛と魔法が、王室外交の重圧に苦しむ一人の王女を救ったのだった。

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