第六十一話「森林の舞踏会と、蝶の羽ばたきのエレガンス」
その年の秋、エルデンベルク王国の貴族たちは、王妃エレオノーラが主催する、「森林の舞踏会」の招待状に胸を躍らせていた。それは、王城の庭園を越えた、深緑の森の入り口で開かれる、自然と優雅さが融合した特別な夜会だ。
イザベラ王女は、この舞踏会のために、特別なドレスのデザインに熱中していた。彼女の目標は、自然のモチーフを取り入れつつも、誰よりも華やかで、優雅な美しさを放つことだった。
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シャルロッテは、姉のために、森の中を歩き回り、インスピレーションを探していた。モフモフと共に、木漏れ日が作る光と影のモザイクの中を進む。
彼女の視線の先で、一匹の黒い羽を持つ、大きな美しい蝶が、木々の間を静かに舞っていた。その蝶の羽には、銀色の繊細な模様が描かれ、光を受けるたびに、見る角度によって様々な色に変化する。
「わあ、なんて優雅なの……」
シャルロッテは、その蝶の姿に、「自然の生命力と、究極の優美さ」の融合を見た。蝶は、ただそこにいるだけで、最高の芸術作品だった。
シャルロッテは、風属性魔法で、蝶の周りの空気を、ごく優しく安定させた。蝶は、その優しさに気づいたかのように、シャルロッテの指先にそっと止まった。
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シャルロッテは、その蝶の姿を、イザベラに伝えることにした。
「お姉様! ドレスはね、黒い蝶だよ!」
イザベラは、「黒? 舞踏会には地味すぎるわ」と顔を曇らせた。
「違うよ! 黒はね、どんな色も、一番優雅に見せる色なの! そして、この蝶の羽みたいに、動くたびに、秘密の七色の光を出すの!」
シャルロッテは、蝶の羽の模様を、イザベラのデザイン画に、光属性魔法で、極めて繊細な銀色の線として転写した。
イザベラは、そのシンプルなデザインに、衝撃を受けた。ベースは漆黒のシンプルなベルベットだが、蝶の羽のような、アシンメトリーな銀の刺繍が施され、袖は、風を受けると、まるで羽ばたくように広がる構造になっている。
「これは……。派手さではない……存在そのものの、強さと華やかさだわ」
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舞踏会の夜。
イザベラは、妹のアイデアを取り入れた、漆黒のドレスを纏い、登場した。そのドレスは、従来の華美な装飾とは一線を画し、研ぎ澄まされたシンプルさの中に、自然の生命力が宿っている。
彼女が踊り始めると、ドレスの袖が風を受け、まるで蝶の羽のように、優雅に、しかし力強く広がる。スポットライトを浴びた銀の刺繍は、シャルロッテがかけた光属性魔法で、見る角度によって、一瞬だけ七色の光を放ち、周囲を魅了した。
会場の貴族たちは、そのエレガンスに息を飲み、イザベラこそが、その夜の主役だと認めた。
シャルロッテは、モフモフを抱き、満足げに微笑んだ。
「ね、モフモフ。やっぱり、自然の可愛さが、一番強いんだよ!」
イザベラは、妹の元にやってくると、優雅に膝を折った。
「シャル。あなたは、私に、真のエレガンスとは、生きる力そのものだと教えてくれたわ。ありがとう」
イザベラはそう言うと、妹の額に優しく口づけをした。
二人の姉妹の間に、自然の美学と、愛の力が満ちていた。