表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

606/607

第六百九話「夕暮れの点灯夫と、姫殿下の『琥珀色の足跡』」

 その日の夕方、王城の庭園は、昼と夜が混ざり合う「青い時間」を迎えていました。

 空は深い群青色に沈みかけ、木々の影が長く伸びて、世界から色が失われていく、少しだけ寂しい時間帯です。


 そんな中、庭園の小道を、一人の背の高い老人が歩いていました。

 宮廷点灯夫のバーナビーです。彼は、長い棒――点火棒――を肩に担ぎ、園内に数百とある魔導ガス灯に、一つ一つ火を灯して回るのが仕事でした。


 カチン。シュボッ。

 カチン。シュボッ。


 彼は、無言で、機械的に作業を続けていました。

 彼にとって、この仕事は「夜という巨大な敵」に対する、終わりのない、そして勝ち目のない戦いのように感じられていました。


「いくら火を灯しても、朝が来れば消える。そしてまた夜が来る。私は毎日、同じ闇を追い払うだけ……」



 ふと、バーナビーの足元に、小さな影が重なりました。

 シャルロッテが、モフモフを抱いて、彼の後ろをトコトコとついてきていたのです。


「こんばんは、バーナビーおじいさん」


「おや、姫殿下。もうじき暗くなります。もうお部屋へお戻りください」


 しかし、シャルロッテは首を横に振りました。彼女の翠緑の瞳は、バーナビーが灯したばかりの琥珀色の光を映して、キラキラと輝いていました。


「ううん。私、おじいさんの『魔法』を見ていたいの」


「魔法……? これは、ただのガス灯ですよ」


「違うよ。おじいさんはね、夜の黒い画用紙に、金色の絵の具で『道』を描いているんだよ」


 シャルロッテは、振り返って、今来た道を見渡しました。

 薄暗い庭園の中に、バーナビーが灯してきた街灯が、点々と、温かい光の鎖のように繋がっています。それは、暗闇に飲み込まれそうだった世界に引かれた、安心の境界線でした。


「見て。おじいさんが歩いたところだけ、夜が優しくなってる」



 シャルロッテは、バーナビーの仕事に、リズムをつけることにしました。

 彼女は、光属性と音響魔法を、ごく控えめに融合させました。


 バーナビーが棒を伸ばし、ランプに触れる。


 カチン。


 その瞬間、火が灯ると同時に、ポロン♪ と、オルゴールのような優しい音が響くようにしたのです。


「さあ、次はあっちのランプだよ! ワン、ツー、スリー!」


 シャルロッテが指揮者のように手を振ると、バーナビーもつられて足取りが軽くなりました。

 次のランプへ。

 カチン。ポロン♪


 また次へ。

 カチン。ポロン♪


 単調だった作業が、リズムとメロディを持った「行進」に変わりました。

 モフモフも、新しく生まれる影を追いかけて、楽しそうに跳ね回っています。


 バーナビーは、自分がランプを灯すたびに、庭園の景色が温かい色に塗り替えられていくのを、初めて「美しい」と感じました。

 彼は、闇と戦っていたのではありませんでした。彼は、夜を楽しむための「光の舞台」を整えていたのです。


「……ふふ。私の棒が、まるで楽器になったようですな」


 老人の顔に、柔らかな笑みが浮かびました。

 最後のランプ――薔薇の塔の入り口にある一番大きな街灯――に火が灯ると、庭園は、琥珀色の光のビーズで飾られた、夜のネックレスのようになりました。


「完成だね!」


 シャルロッテは、光の道を満足そうに眺めました。


「おじいさんのおかげで、夜になっても、誰も迷子にならないよ。ここは、世界で一番安全な『光の廊下』だもん」


 バーナビーは、帽子をとって、小さな姫君に一礼しました。


「ありがとうございます、姫殿下。……明日の夕方も、またこの『演奏会』にお付き合いいただけますかな?」


「もちろん! だってひとりより二人でやったほうが絶対可愛いもんね!」


 完全に日が落ちた後も、王城の庭園には、温かい光の列が浮かび上がっていました。

 それは、家路を急ぐ人々や、窓から外を見る人々にとって、「もう休んでもいいんだよ」と告げる、優しくて懐かしい合図となっていたのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ