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【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


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第六百四話「星の海への手紙と、姫殿下の『黄金の雑音レコード』」

 その日の夜、王城で一番空に近い場所、天文塔の観測室は、静かな興奮に包まれていました。

 王立天文学者のサガン博士が、長年の夢であった「星空へのメッセージ」を送る計画を実行に移そうとしていたのです。


 部屋の中央には、純金でコーティングされた、美しく輝く一枚の円盤(ディスク)が置かれていました。

 これは、魔力によって音と光景を永遠に記録できる、国宝級の魔導具でした。


「陛下、殿下。このディスクには、我がエルデンベルク王国の『叡智の全て』を刻み込みます。そして、流星の魔力を借りて、遥か彼方の宇宙、あるいは数千年後の未来へと飛ばすのです」


 サガン博士は、鼻息荒く語りました。

 彼のリストには、記録すべきデータがびっしりと書かれていました。


 ・王国の詳細な地図

 ・マリアンネ王女が発見した魔法定数の数式

 ・ルードヴィヒ国王による「我が国の正義について」の厳格な演説

 ・騎士団のファンファーレ


 アルベルト王子も頷きました。

「なるほど。もし未知の知的生命体、あるいは未来の子孫がこれを拾った時、我々が高い知能と秩序を持っていたことを証明できるわけだな」


 それは、とても立派で、とても真面目で……そして、どこか冷たい「履歴書」のような内容でした。



 そこに、シャルロッテがモフモフを抱いて、夜食のリンゴをかじりながら入ってきました。

 彼女は、金色のディスクを見て、「わあ、大きなお金?」と目を丸くしましたが、博士の説明を聞くと、途端に頬を膨らませました。


「えー。サガン博士、それってつまんないよー」


「つ、つまらないとはなんですか、姫殿下! これは我々の文明の証明であり……」


「だって、もし私がお星様の世界に住んでいて、こんな難しい数式とか、パパの長いお説教が届いたら、『うわ、勉強の宿題が来た!』って思って、捨てちゃうかも」


 シャルロッテの言葉に、国王は「ぐぬっ」と唸りました。痛いところを突かれたからです。


「ねえ、博士。お友達になりたい時に、成績表を見せる人はいないよ? 『楽しいよ、こっちはいいところだよ!』って教えるのが、お友達への手紙でしょう?」


 シャルロッテは、リンゴをシャクッと噛みました。

 その瑞々しい音が、静かな観測室に響きました。


「……あ。これだ!」


 シャルロッテは、モフモフをディスクの前に連れて行きました。

 そして、録音魔法を起動させました。


「博士、ちょっと静かにしててね。……はい、モフモフ、どうぞ!」


 モフモフは、ディスクの輝きに興味津々で、鼻を近づけました。

 フンフン、フゴゴ……。

 そして、満足げに大きくあくびをしました。

 くぁ〜……、ガウッ。


「ふふっ。次は私!」


 シャルロッテは、残りのリンゴを、景気良くかじりました。

 シャクッ! モグモグ、ゴックン。

 それは、生命が何かを食べて「美味しい」と感じている、その瞬間の生の音でした。


「な、何をなさいますか! 神聖な記録媒体に、咀嚼音そしゃくおんや獣の鳴き声を……!」

 サガン博士は慌てふためきましたが、シャルロッテは止めませんでした。


「次! アルベルト兄様!」

「えっ、私か?」

「兄様、こちょこちょー!」


 シャルロッテは、不意打ちで兄の脇腹をくすぐりました。

 アルベルト王子は、我慢できずに吹き出しました。


「ぶっ! あっ、はははは! や、やめろシャル! ははは!」


 厳格な王子の、理性のタガが外れたような笑い声が、しっかりとディスクに刻まれました。


「パパも! ママのことを呼んで!」

「ええっ? こ、こんな夜更けにか? ……エ、エレオノーラ……愛しているよ……」


 国王の、照れくさそうで、少し上ずった声も記録されました。



 ひと通りの「雑音」を録音し終えると、シャルロッテは満足げにディスクを撫でました。


「これでよし! 数式も地図もないけど、ここには『美味しい』と『楽しい』と『大好き』が入ってるよ」


 サガン博士は、頭を抱えていました。


「ああ……。王国の威厳が……。これでは、我々がただの『よく食べ、よく笑う種族』だと思われてしまう……」


 しかし、再生された音を聞いて、博士はふと黙り込みました。

 ディスクから流れてくるのは、リンゴをかじる音、子熊の寝息、王子の笑い声、そして「愛している」という照れくさい囁き。

 それは、どんな高度な数式よりも、遥かに雄弁に「この星は、温かくて平和な場所だ」ということを語っていました。


「……不思議ですね。この雑多な音を聞いていると、なぜか胸が熱くなる。遠い宇宙の誰かに、『私たちは、こんなに幸せに生きていましたよ』と、胸を張って言える気がします」


 博士は、数式のページを削除し、シャルロッテの録音を採用することに決めました。


 深夜、流星群が降る時刻。

 「黄金のレコード」は、強力な風魔法によって、夜空の彼方へと打ち上げられました。


 シャルロッテは、夜空を見上げて手を振りました。


「届くといいね、モフモフ。いつか、遠い星の人がこれを聞いて、『あはは、この星のご飯は美味しそうだなあ』って、遊びに来てくれるといいね! だってその方が絶対可愛いもんね!」


 夜空に吸い込まれていった金色の円盤は、王国の知識ではなく、王国の「体温」を乗せて、永遠の旅に出ました。

 それは、広大な宇宙の暗闇に対する、小さくて、とびきり明るい「ご挨拶」だったのです。

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