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第六話「雨の日の憂鬱と、シャルのきらきら魔法ルーム」

 朝から雨が降り続いていた。エルデンベルク王国では珍しい、じめじめとした、長く続く雨だ。


 薔薇の塔の一室。シャルロッテは窓の外を眺めて、小さなため息をついた。


「うーん。今日も雨かあ」


 隣では、シャルロッテに抱きついたモフモフが、ふわふわの毛皮をシャルロッテのレモンイエローのドレスに擦り付けている。モフモフは雨の音が嫌いなようで、心なしかいつもより体が縮こまっている。


「モフモフも、外に出られなくて退屈だね」


 その日、シャルロッテはマナー講座で友達になったエリーゼ・フォン・ノイマンを薔薇の塔に招いていた。約束の時間になり、エリーゼがエマに導かれて部屋に入ってきた。


「三女殿下、本日はお招きいただきありがとうございます」


「エリーゼちゃん、来てくれてありがとう! 堅苦しくないで、シャルでいいよ!」


 シャルロッテは笑顔で迎えたが、エリーゼの顔は曇っていた。


「あの……お城はやっぱり立派すぎて緊張します。それに、この雨では、せっかくの庭園も歩けませんし……」


 エリーゼは窓の外を見やり、ため息をついた。外でのお花摘みを楽しみにしてくれていたのだろう。内気な彼女にとって、初めての王城訪問はそれだけでも大きなプレッシャーだ。


「そうか、お外で遊べないの、つまらないよね」


 シャルロッテは少し考えて、ぱっと顔を輝かせた。


「よし! じゃあ、お外に行けないなら、お部屋を楽しい場所に変えちゃおう!」


「え、お部屋を?」


「うん! わたし、お外より可愛くて楽しいお部屋を作る魔法を知ってるんだ!」



 シャルロッテは、早速メイドのエマに指示を出した。


「エマ、お菓子と、ふわふわのクッションをたくさん持ってきて! あと、マリアンネお姉様に、ちょっと協力をお願いするね!」


 数分後、第二王女のマリアンネが目を輝かせながら入ってきた。


「シャル! 魔法の応用かしら? 私にも手伝えることがあるの?」


「うん! お姉様には、お部屋を秘密の場所に変えるお手伝いをお願い!」


 シャルロッテは、前世の知識とこの世界の魔法を組み合わせた「雨の日対策」を始めた。


快適な温室空間(温度調整魔法の応用)

「雨で冷たいのはいやだもんね」

シャルロッテは部屋全体に、温度調整魔法を優しくかけた。ただ暖めるのではなく、春の陽だまりのような、心地よい温度と湿度になるように調整する。まるで城の温室にいるような、ふんわりとした温かさが部屋を包んだ。


動くおもちゃのパレード(浮遊魔法の応用)

「退屈なのは、モノが動かないからだ!」

シャルロッテは、ぬいぐるみコレクションのいくつかに、浮遊魔法をかけた。小さなテディベアや、虹色ユニコーンのぬいぐるみが、ゆらゆらと空中に浮かび上がり、部屋の中をゆっくりと周回し始めた。その姿は、まるで小さなパレードのようだった。


キラキラ魔法の雨(光・風属性の応用)

「一番大事なのは、可愛い視覚効果だよね!」

シャルロッテは、床に向かって虹色の魔力を込めた光属性魔法を放った。同時に、風属性で微細な水滴を空中に巻き上げる。床には、光の玉が水たまりのように揺らめき、天井からは、七色に輝く微細な水滴が、ゆっくりと降り注いでくる。光の屈折で、部屋全体がキラキラと幻想的に輝いた。


「わあ……!」


 エリーゼは、思わず声を上げた。緊張していた顔から、一気に不安が消え、驚きと喜びに満ちた表情に変わった。


◆ 


 「そして、ここが秘密の部屋だよ!」


 マリアンネは、シャルロッテの指示に従い、部屋の隅の大きなクローゼットに「隠蔽魔法」を応用した。クローゼットの扉を開けると、そこはただの収納スペースではなく、深い森のような緑色に光る、秘密の小部屋に見える。


「すごい! ここは、まるで森の中だわ!」


「うん! そして、お姉様、お願い!」


 マリアンネは、窓にそっと手をかざした。防音結界を応用し、窓を打つ激しい雨の音だけを、ほとんど聞こえないように遮断する。雨の日の憂鬱な音が消え、静かで温かい空間だけが残った。



 モフモフは、温かい温度と静かな空間に安心したのか、シャルロッテの足元でごろんと横になった。


「エリーゼちゃん、この可愛いマカロン、一緒に食べよう! ピンク色でふわふわだよ!」


 シャルロッテが差し出したのは、エマが運んできた、可愛らしいお菓子が乗ったケーキスタンドだ。


 エリーゼは、緊張していたことなどすっかり忘れ、パレードするぬいぐるみを見上げながら、マカロンを手に取った。


「こんなに楽しい雨の日は、初めてです……。まるで、おとぎ話みたい。お花摘みに行けなくて、落ち込んでいたのが嘘みたいです」


「えへへ。マナーも大切だけど、楽しく笑うことも大切だよ」


 シャルロッテは、エリーゼの笑顔を見て、心から満足した。



 その後のティータイムは、笑い声に満ちていた。エリーゼは、シャルロッテの魔法の遊園地と、モフモフの可愛い姿に夢中だった。


「シャル様は、本当にすごいです。こんなに小さな魔法で、みんなを幸せにできるんですね」


「ううん、わたしはただ、エリーゼちゃんが笑ってくれるのが見たかっただけだよ。みんなが楽しいのが、わたしの一番の幸せポイントだもん!」


 帰り際、エリーゼはシャルロッテを強く抱きしめた。


「今日はありがとうございました。シャル様は、本当に……私のお日様みたいです」



 エリーゼを見送った後、マリアンネがシャルロッテの頬を優しく撫でた。


「シャル、あなたの魔法は、私なんかよりずっと凄い。物を動かすだけじゃない。人の心を動かす魔法だわ」


「そうかな? 楽しいからやってるだけだよ!」


 シャルロッテは、無邪気な笑顔で首を傾げた。その笑顔は、雨で曇った空を一瞬で晴れやかにするほどの力を持っていた。


 夜、モフモフを抱きしめてベッドに入ると、窓を打つ雨の音はまだ小さく聞こえていた。しかし、シャルロッテの心は温かい光で満たされていた。


 今日も、誰かを笑顔にできた。可愛いものに囲まれて、大好きな家族や友達と過ごせた。


 それだけで、本当に幸せな一日だった。

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