表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

593/594

第五百九十六話「鉛の文字盤と、姫殿下の『無限のキス・マシン』」

 その日の午後、王城の地下にある古い印刷所は、重苦しい沈黙と、鼻を突くインクの油の匂いに満ちていました。

 そこには、王立書記官のヨハネス爺さんが、山積みになった羊皮紙を前に、腱鞘炎になりそうな手をさすりながら座り込んでいました。


 彼は、来月の「星祭り」の招待状を、一枚一枚、手書きで書いていたのです。その数は千枚以上。

 横には、マリアンネ王女が開発した最新鋭の「魔導活版印刷機」が置いてあるのですが、ヨハネスは頑としてそれを使おうとしませんでした。


「……機械はいかん。機械で刷った文字には、体温がない。魂がない。相手を思う心は、筆の運びの『揺らぎ』にこそ宿るのじゃ」


 ヨハネスは、文字の「個体差」こそが愛だと信じる、古き良き職人でした。しかし、祭りの日は迫っており、彼の手は限界を迎えていました。



 そこへ、シャルロッテがモフモフを連れて、インクの匂いに誘われてやってきました。

 彼女は、疲れ切ったヨハネスと、埃を被った印刷機を交互に見ました。


「ねえ、ヨハネスおじいさん。その大きな機械さん、退屈そうにしてるよ?」


「姫殿下……。あれは『冷たい鉄の塊』です。あれで刷ると、千枚の手紙が、全部同じ顔になってしまうのです。それは、受け取る人への冒涜です」


 シャルロッテは、印刷機の「活字(※鉛のハンコ)」が並んだケースを覗き込みました。

 無数の文字が、逆さまに彫られた金属の棒として、整然と並んでいます。


 彼女の目には、その整列した文字たちが、冷たい兵隊ではなく、「出番を待っている、お行儀のいい合唱団」に見えました。


「ううん、違うよ。同じ顔っていうのはね、『えこひいきしない』ってことだよ」


 シャルロッテは、ヨハネスの手から羽ペンをそっと取り上げました。


「おじいさん。手書きだとね、疲れてくると字がヨレヨレになっちゃうでしょう? そうすると、最後にもらった人は『僕の手紙だけ、元気がないな』って悲しくなるよ」


 シャルロッテは、活字を一つ手に取りました。それはズシリと重い、「愛」という文字でした。


「でもね、この鉄の文字さんは、何度押しても、絶対に疲れないの。最初の人にも、千番目の人にも、全く同じ強さで、全く同じ形の『大好き』を届けられるんだよ!」


 彼女は、それを「無限のキス・マシン」と名付けました。

 何度繰り返しても変わらない、永遠の誓いのようなキスだと。



 シャルロッテは、印刷機に飛び乗りました(※危ないのでモフモフが支えています)。

 そして、土属性と風属性の魔法を、機械の歯車に流し込みました。


「さあ、機械さん! みんなに平等な愛を配るよ!」


 ガシャン、ゴシャン!

 印刷機が、リズミカルな音を立てて動き始めました。

 インクのローラーが活字を撫で、紙が吸い込まれ、プレスされる。


 シュッ、ポン! シュッ、ポン!


 吐き出される招待状の文字は、くっきりと黒く、凛としていました。

 ヨハネスは、その一枚を手に取りました。

 インクがまだ乾いていない文字からは、微かな熱と、機械油の匂い、そして不思議なことに「誇らしげな気配」が立ち上っていました。


「……確かに。この文字は、胸を張っている。千枚目でも、決して背筋を曲げない、騎士のような文字だ」


 ヨハネスは、自分の震える手と、機械の力強い仕事を見比べ、涙ぐみました。

 機械的な複製は、愛の欠如ではなく、「愛の持続力」の証明だったのです。


 シャルロッテは、次々と刷り上がる招待状の山にダイブしました。


「わあ! インクの匂いって、ワクワクするね! これなら、国中の人に招待状を送れるよ! ヨハネスさん、もっと可愛い招待状を作っちゃおう!」


 ヨハネスは、印刷機のハンドルを、今度は自らの手で回し始めました。

「……負けました、姫殿下。私の手は老いましたが、この鉄の腕があれば、私の愛は無限に増やせますな」


 その日の夕方、王城の郵便受けは、かつてないほど大量の、そして一枚残らず完璧に美しい招待状で溢れかえりました。

 それは、文明の利器が、「効率」のためだけでなく、「愛の公平さ」のために使われた、最初の記念日となったのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ