第五百九十五話「真っ白な鳥の群れと、姫殿下の『カラフル・ランチタイム』」
その日の午後、王城の動物園にある水鳥の池は、大混乱に陥っていました。
南の国から贈られたばかりの、美しい「フラミンゴ」の群れが到着したのですが、檻の前で、第二王子フリードリヒが頭を抱えて叫んでいたのです。
「なんということだ! この鳥たちは、真っ白ではないか! 顔色が悪いぞ! 長旅で貧血を起こしているに違いない!」
フリードリヒの目の前にいるのは、雪のように真っ白なフラミンゴたちでした。彼は、図鑑で見た「鮮やかなピンク色の鳥」を想像していたため、この白さを「重病のサイン」だと勘違いしたのです。
「衛生兵! いや、コックを呼べ! 精のつくものを食わせるんだ! 赤身のステーキだ! レバーを焼け!」
フリードリヒは、細い脚の鳥たちに、無理やり肉料理を食べさせようとしていました。鳥たちは「ギュエエ?」と困惑し、逃げ回っています。
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そこへ、シャルロッテがモフモフを連れて通りかかりました。
彼女は、大騒ぎする兄と、逃げ惑う白い鳥たちを見て、すぐに状況を察しました。
「あーあ。フリードリヒ兄様、鳥さんたちはお肉食べないよ?」
「シャル! だが、見ろ、この顔色の悪さを! 今にも倒れそうだ!」
シャルロッテは、やれやれと首を振りました。そして、前世の動物園で聞いた豆知識を披露しました。
「兄様。フラミンゴさんはね、病気じゃないよ。もともと白いの」
「な、なんだと? だが、絵本ではピンク色だったぞ?」
「それはね、『赤いご飯』を食べているからなんだよ。赤い藻やエビをたくさん食べるから、その色が羽に出てくるの。『食べたもので体ができる』っていう、一番わかりやすい鳥さんなんだよ」
フリードリヒは、ポカンと口を開けました。
「食べたものの色になる……? そんな馬鹿な。俺がホウレンソウを食べたら緑色になるか? ならんだろう?」
「人間はならないけど、この子たちはなるの!」
シャルロッテは、いたずらっぽく笑いました。
もし、食べたものの色になるのなら、赤以外を食べさせたらどうなるのでしょう?
「よし、実験だよ、モフモフ! 『カラフル・ランチタイム』の始まり!」
◆
シャルロッテは、マリアンネ王女の研究室から、実験用の「魔力を含んだ特別な餌」を借りてきました(というか、勝手に持ち出しました)。
それは、青い魔力草、黄色いヒマワリの種、そして紫色のブドウのエキスを染み込ませた団子です。
「さあ、みんな! ご飯だよー!」
シャルロッテが、色とりどりの団子を池に投げ入れると、お腹を空かせていたフラミンゴたちは、ステーキには見向きもしませんでしたが、この団子には一斉に飛びつきました。
パクパク、モグモグ。
すると、どうでしょう。
食べた端から、魔法の効果も相まって、鳥たちの羽の色がみるみる変わり始めたのです。
青い団子を食べた鳥は、空のようなスカイブルーに。
黄色い団子を食べた鳥は、レモンのような鮮やかなイエローに。
紫の団子を食べた鳥は、高貴なバイオレットに。
そして、欲張って全部の種類を食べた食いしん坊な一羽は、羽の一枚一枚が違う色に輝く「レインボー・フラミンゴ」になってしまいました。
「うおおおっ!? 鳥が、絵具で塗ったみたいに変わった!」
フリードリヒが腰を抜かしました。
池の中は、一瞬にして、白い雪景色から、南国のカーニバルのような極彩色の世界へと変貌しました。
カラフルになった鳥たちは、お互いの新しい色を見せ合うように、翼を広げて優雅にダンスを始めました。
「わあ、きれい! 動く宝石箱みたいだね!」
シャルロッテは手を叩いて喜びました。モフモフも、虹色の鳥を追いかけて、水辺を走り回っています。
フリードリヒは、呆然としながらも、その美しさに目を奪われていました。
「……貧血じゃなかったのか。しかし、こんなに派手になってしまって、父上に怒られないか?」
「大丈夫だよ! だって、こっちのほうが断然、元気そうで可愛いもん!」
その日の夕方、視察に来たルードヴィヒ国王は、池を見て驚愕しましたが、シャルロッテの「パパのために、世界中の色を集めてきたんだよ!」という言葉に、目尻を下げて喜んだそうです。
フラミンゴたちは、魔法の効果が切れるまでの数日間、王城の庭をトロピカルな楽園に変え続けました。
「体は食べたものでできている」。
その当たり前の事実が、こんなにも目に見えて楽しいことだと、シャルロッテは教えてくれたのでした。




