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【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


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第五百七十九話「首なし騎士の徘徊と、姫殿下の『真夜中の福笑い』」

 その夜、王城の北門を守る衛兵たちの間で、ある噂が駆け巡っていました。

 深夜、誰もいないはずの石畳の通路を、カツン、カツンと金属音をさせて歩く、首のない甲冑姿の男が現れるというのです。


「あれは『デュラハン』だ。死を告げる騎士だ……」

「見た者の命を奪うらしいぞ」


 兵士たちは震え上がり、夜の見回りを怖がるようになっていました。



 しかし、シャルロッテは、その噂を聞いて、ベッドの中で目を輝かせていました。

 モフモフはすでに枕元で丸くなっていましたが、彼女はそっと起き出し、上着を羽織りました。


「ねえ、モフモフ。首がない騎士様なんて、きっとすごく困ってるはずだよ。だって前が見えないもんね」


 シャルロッテは、懐中電灯代わりの光る魔石と、画用紙とクレヨンを持って、こっそりと部屋を抜け出しました。


 北の回廊は、冷たい夜風が吹き抜けていました。

 しばらく待っていると、噂通りの音が聞こえてきました。


 ジャラッ……カツン……。


 闇の中から現れたのは、立派な黒い甲冑をまとった、しかし首から上がぽっかりと空いている、大柄な騎士でした。

 彼は、手探りで壁に触れながら、どこか寂しげに彷徨っているようでした。


 シャルロッテは、物陰から飛び出しました。


「こんばんは、騎士様! 何かお探し物ですか?」


 デュラハンは、ビクリとして立ち止まりました。声の主を探すように体を向けますが、目がないのでシャルロッテの正確な位置がわからないようです。


 シャルロッテは、騎士の足元に駆け寄りました。

「ここだよ。私はシャルロッテ」


 騎士は、困ったように肩をすくめる仕草をしました。どうやら、本当に自分の頭を落としてしまって、見つからないようです。


「大変だね。でも大丈夫! 私が新しい『お顔』を見繕ってあげる!」


 シャルロッテは、近くの倉庫から、収穫祭の残りのカボチャを一つ持ってきました。

 そして、クレヨンで、ニッコリ笑った目と口を書き込みました。


「はい、これ! 『笑顔のカボチャ頭』だよ!」


 シャルロッテは、浮遊魔法を使って、カボチャを騎士の首の上に乗せてあげました。

 すると、どうでしょう。

 それまで不気味だった黒騎士が、一瞬にして、愛嬌たっぷりのハロウィンのマスコットのようになりました。

 騎士は、自分の新しい頭を、手でそっと触って確認しました。まんざらでもなさそうです。


「でも、ちょっと重いかな? じゃあ、次はこれ!」


 シャルロッテは、風船を膨らませました。そして、今度は凛々しい眉毛と、口ひげを描きました。


「『ダンディな風船紳士』だよ!」


 風船の頭を乗せると、騎士は急に軽やかになり、ステップを踏むような仕草を見せました。

 シャルロッテは、次々と「替えの頭」を提案しました。

 花瓶を乗せて「お花の妖精騎士」、積み木を乗せて「カクカクの四角頭」。


 それは、恐怖の妖怪退治ではなく、真夜中の楽しいファッションショー、あるいは「福笑い」でした。


 騎士は、シャルロッテが提案するたびに、ポーズを変えたり、お辞儀をしたりして、その新しい「アイデンティティ」を楽しんでいるようでした。

 首がないということは、()()()()()()()()()()という自由でもあったのです。


 やがて、東の空が白み始めました。

 騎士は、最後にシャルロッテが描いた「画用紙に描かれた、優しそうな王子の顔」のお面を選んで、首元に挟みました。


 そして、シャルロッテに向かって、最も深くて丁寧な、騎士の礼をしました。

 彼は、もう前が見えない亡霊ではありませんでした。新しい顔と、少しの自信を手に入れた、夜の旅人でした。


 騎士は、朝霧の中に溶けるように消えていきました。


 翌朝、衛兵たちは首を傾げました。

 回廊のあちこちに、顔の描かれたカボチャや、萎んだ風船が落ちていたからです。


「……ゆうべの幽霊、宴会でもしたのかな?」


 シャルロッテは、朝食のテーブルで、モフモフに囁きました。

「すごくおしゃれな騎士様だったね。今度は、もっとかっこいい兜を用意しておいてあげようかな。だってそれが一番可愛いもんね!」


 王城の怪談は、いつの間にか、「夜中にファッショナブルな騎士が現れる」という、不思議で愉快な噂へと変わっていったのでした。

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