第五百六十七話「居眠りする魂と、姫殿下の『びっくりダンス大会』」
その頃、王城は「完璧な一週間」を迎えていました。
あまりにも平和で、あまりにもスケジュール通りで、何もかもが順調すぎたのです。
朝の鐘が鳴れば、メイドたちは一斉に掃除を始め、兵士たちは寸分違わず行進し、文官たちは同じリズムでハンコを押し続けていました。
それは素晴らしいことのはずでしたが、シャルロッテには、みんながどこかおかしく見えました。
「ねえ、モフモフ。みんな、目は開いてるけど、心が寝ちゃってるみたい」
廊下を歩くオスカー執事に声をかけても、「はい、左様でございます」と、質問の中身も聞かずに自動的に返事をして通り過ぎていきます。
アルベルト王子も、書類を見ながら歩き、壁にぶつかりそうになって初めて「おっと」と避ける有様です。
みんな、慣れきった毎日に埋没して、自分が「今、ここ」にいることを忘れてしまっていたのです。まるで、ネジ巻き仕掛けの人形のように。
「つまんない! こんなの、生きてるってことにならないよ!」
シャルロッテは、みんなの目を覚まさせるために、とっておきの作戦を思いつきました。
それは、「絶対に自動的にはできない、変な動き」をみんなにさせることでした。
昼食の時間、大食堂に集まった王族と家臣たちの前で、シャルロッテはテーブルの上に立ち上がりました。
「注目ー! 今から、『目覚ましの儀式』を始めます!」
シャルロッテは、モフモフと一緒に奇妙なポーズをとりました。
右手を上に突き出しながら指を折り曲げ、左手は腰の後ろで回し、足はスキップしながら、首だけをゆっくり左に向ける――という、バラバラで複雑怪奇な動きです。
「さあ、みんなもやってみて! 間違えたら、今日のデザートは抜きだよ!」
「は、はい!?」
不意打ちを食らった大人たちは、慌てて真似をしようとしました。
しかし、これが難しいのです。
手と足と頭が、それぞれ違うリズムで動くことを要求されるため、いつもの「慣れ」が通用しません。
ガタッ! ドスン!
アルベルト王子が、手足が絡まって椅子から転げ落ちました。
オスカー執事は、盆を持ったまま奇妙なツイストを踊り出し、自分が何をしているのかわからなくなって硬直しました。
フリードリヒ王子に至っては、「ぬおおお! 剣を振るより難しい!」と叫んで、床をのたうち回りました。
大食堂は、一瞬にしてカオスな空間になりました。
しかし、その混乱の中で、みんなの目に「光」が戻ってきました。
「痛っ! ……あれ? 私、今、転んだ?」
「ははは! なんだこの格好は!」
転んだり、失敗したり、笑ったりすることで、彼らの意識は「自動運転モード」から強制的に解除され、「今、ここで、体が動いている」という強烈な実感を取り戻したのです。
シャルロッテは、目を回しているモフモフを抱きかかえ、満足げに頷きました。
「ほらね! みんなの心がやっと起きたよ!」
アルベルト王子は、乱れた服を直しながら、清々しい顔をしていました。
「……驚いたな。毎日同じことを繰り返しているうちに、私は思考を停止していたようだ。この『変なダンス』は、脳に強烈な刺激を与える」
「でしょう? 人間はね、時々変なことをしないと、機械になっちゃうんだよ」
その日の午後は、王城のあちこちで、使用人たちが時折、奇妙なポーズをとって体をほぐしたり、わざといつもと違う道を通ってみたりする姿が見られました。
効率は少し落ちたかもしれませんが、そこには「私は生きている!」という、生き生きとした空気が満ちていました。
シャルロッテの提案した「びっくりダンス」は、退屈な日常に風穴を開け、魂を呼び覚ますための、最高に愉快な秘儀だったのです。




