第五百六十話「継ぎ接ぎの毛布と、姫殿下の『変わっていく宝物』」
雨の日は針仕事に限る、とエマは言う。
窓辺の椅子に座って、膝の上の布に針を通しながら、エマは時々ため息をついた。それは、私が赤ちゃんの頃から愛用している毛布――モフモフ2号だ(1号は本物のモフモフである)。
もう、何度繕ったかわからない。
破れては繕い、擦り切れては新しい布を当て……を繰り返した結果、今では赤や青、花柄や水玉が入り乱れる、カオスなパッチワークと化していた。
「ねえ、シャル」
読書に飽きたマリアンネ姉様が、私の膝の毛布を見て言った。
「その毛布、元の生地ってもう残ってないんじゃない?」
「え?」
「真ん中は先月変えたでしょ。縁取りは去年リボンにしたし。裏も、綿も、全部入れ替わってる」
言われてみればそうだ。
「物質的には、もう別物よ。それを同じ『愛用の毛布』って呼べるのかしら」
修理で全部の部品が入れ替わった船は、いったい元の船なのか。哲学の授業でそんなことを習ったらしい。
私は毛布に顔をうずめた。石鹸の匂い。お日様の匂い。
「うーん……」
正直、難しいことはよくわからない。でも。
「ここの青い布はね」と、私は縫い目を指でなぞった。「ジュースこぼした時にエマがつけてくれたやつ。黄色いのは、モフモフが破いちゃって、パパが『新しいの買おう』って言ったのに、私が泣いて嫌がったから……」
布は変わったかもしれない。
でも、思い出は継ぎ足されてる。物語は続いてる。
そう言いたかったんだけど、うまく言葉にならなくて、私はただ毛布をギュッと抱きしめた。
「……そっか」
マリアンネ姉様は、少し笑った。
「人間の細胞も入れ替わるけど、私は私のままだものね」
そこへモフモフがのっそり来て、毛布の上にどかっと座った。
相変わらず重い。
「こら! また爪立てないでよー」
何も解決してない。毛布はボロボロのままだし、マリアンネ姉様の質問にちゃんと答えられたかもわからない。
でも、雨音を聞きながら、継ぎ接ぎだらけの毛布に包まっていると、なんだかそれでいい気がしたのだった。




