表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

549/593

第五百五十二話「硝子の宮殿と、姫殿下の『無重力博覧会』」

 その年の初夏、エルデンベルク王国では、周辺諸国を招いての「大博覧会」が開催されていた。

 城の広場には、各国の威信をかけた展示物が並んでいる。


 北の帝国は、蒸気を上げて動く巨大な鉄の掘削機を。

 南の王国は、純金で鋳造された等身大の象の像を。

 西の公国は、最新鋭の重装甲馬車を展示していた。


 どれもが「重く」「硬く」「強い」。

 会場は、金属の匂いと、国力を誇示する男たちの熱気でむせ返るようだった。


 視察に訪れたルードヴィヒ国王とアルベルト王子は、その圧倒的な「物質の質量」に感嘆しつつも、どこか息苦しさを感じていた。

「素晴らしいが……。いささか、胃もたれしそうな光景だな」



 そこへ、シャルロッテがモフモフを連れてやってきた。彼女は、広場を埋め尽くす鉄と金の山を見て、頬を膨らませた。


「ねえ、パパ。みんな、地面にめり込みそうなものばっかり自慢してるね。もっと、フワフワした博覧会はないの?」


 各国の代表たちは、愛らしい姫殿下の言葉に苦笑した。

「これはこれは姫様。国力とは『重さ』なのです。揺るがぬ重さこそが、平和を維持するのです」


 シャルロッテは、その考えに「新しい風」を吹き込むことにした。


「じゃあ、私が『別館』を作るよ! そこには、世界で一番軽くて、素敵なものを並べるの!」


 シャルロッテは、広場の中央、噴水のある空間に立った。

 彼女は、土属性(※珪素の精製)と火属性、そして風属性の魔法を、大規模に融合させた。


 ズズズ……パリーン!


 地面の砂が一瞬で溶解し、空中で冷却され、透明な板となって組み上がる。

 わずか数分のうちに、広場の中央に、すべてがガラスでできた、巨大なドーム状の温室「水晶宮」が出現した。

 鉄骨さえ使わない、魔法による純粋なガラスの建築だ。


「さあ、みなさん。どうぞ中へ!」


 重苦しい鉄の展示物に囲まれていた各国代表たちは、その涼しげな透明な建物に誘われ、吸い込まれるように中へと入っていった。



 ガラスの宮殿の中は、外の世界とは別天地だった。

 そこには、高価な展示台も、説明書きもなかった。

 ただ、空間全体に、数え切れないほどの「白い綿毛」が舞っていた。


 それは、シャルロッテが国中の野原から風魔法に乗せて集めた、タンポポやアザミの綿毛たちだった。


 ふわふわ、ゆらゆら。

 陽光がガラスを透過し、綿毛の一本一本を金色に照らす。

 空調魔法によって制御された微風が、綿毛たちを生き物のように踊らせている。


「……こ、これは?」

 鉄の掘削機を自慢していた帝国の技師が、呆然と手を伸ばした。

 綿毛は、彼のごつい手に触れると、重さを感じさせることなく、ふわりと舞い上がった。


「これはね、『風の種』の博覧会だよ!」


 シャルロッテは、綿毛の嵐の中でくるくると回った。

 モフモフも、空中を漂う綿毛をキャッチしようと、ポヨンポヨンと跳ねている。


「ここの展示物はね、重さがないの。だから、どこへでも飛んでいけるの。国境も、壁も関係なく、遠くの国まで飛んでいって、そこでお花を咲かせるんだよ!」


 その言葉は、重厚な展示物を誇っていた大人たちの心に、静かな衝撃を与えた。

 彼らが競っていたのは「動かない重さ(=領土や財産)」だった。しかし、シャルロッテが示したのは「移動する軽やかさ(=種や文化)」だった。


 ガラスの宮殿の中では、誰も大声を上げなかった。息を荒らげれば、綿毛の展示物が飛んでいってしまうからだ。

 屈強な男たちが、綿毛を驚かせないように、抜き足差し足で歩き、優しい顔で空中を見上げている。


 アルベルト王子は、眼鏡についた綿毛を取りながら、微笑んだ。

「……参ったな。鉄の塊よりも、この綿毛一つのほうが、よほど遠くへ届く力を持っているとは」


 ルードヴィヒ国王も、ガラス越しに見える青空を見上げた。

「重さで圧倒するのではなく、軽さで包み込む。これぞ、我が国の誇るべき文化かもしれん」


 その日の午後、ガラスの宮殿の天井窓が開かれた。

 何万という綿毛が、上昇気流に乗って空へと旅立っていった。

 各国の代表たちは、自分の国へ飛んでいくかもしれないその小さな種を、いつまでも見送っていた。


 シャルロッテの「無重力博覧会」は、何かを解決したわけではなかったが、重苦しい競争に疲れていた人々の心に、ふわりとした隙間と、優しい風を通したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ