第五百二十話「虹の絹織物と、乙女たちの『運命の色合わせ』」
その日の午後、王城の西にある「陽光のサンルーム」は、目がくらむような色彩の洪水に満たされていました。
東方の国から、「プリズム・シルク」と呼ばれる魔法の布地が大量に届いたのです。この布は、見る角度によって色を変えるだけでなく、それを纏う人の「魅力」に反応して、自ら発光するという不思議な性質を持っていました。
シャルロッテは、イザベラ王女、マリアンネ王女、そして友人のエリーゼを招集し、緊急の「ファッション研究会」を開催しました。
「みなさま、ごきげんよう! 今日はね、自分を世界で一番可愛く見せてくれる『運命の色』を探す実験だよ!」
部屋の中には、赤、青、黄、紫、緑……ありとあらゆる色のシルクが、天蓋のように吊るされ、あるいは波のように床に広がっていました。
まずは、ファッションリーダーであるイザベラ王女が鏡の前に立ちました。
「わたくしに似合う色は、やはり高貴な紫か、情熱的な赤かしらね」
シャルロッテは、深紅の布をイザベラの肩にかけました。
ふわっ。
布がイザベラの肌に触れた瞬間、まるで薔薇の花が一斉に開花したかのような、華やかなオーラが立ち上りました。布自体が脈打つように輝き、イザベラの白い肌を艶やかに見せます。
「まあ! 見て、お姉様! お姉様が発光してる!」
「ふふ、やっぱりね。この色は私の情熱を理解しているわ。私が着ると、布も喜んでいるみたい」
イザベラは鏡の前でポーズを取り、その圧倒的な美しさに、他の三人はため息をついて拍手しました。
次は、普段は白衣や地味なドレスが多いマリアンネ王女です。
「私は色彩理論には詳しいけれど、自分に似合う色は……無彩色が合理的だと思っているわ」
シャルロッテは、首を振りました。
「ううん。お姉様の知性はね、冷たい色の中でこそ、一番熱く輝くんだよ」
シャルロッテが選んだのは、「アイスブルー」と「プラチナシルバー」の布でした。
それをマリアンネに合わせると、布は凛とした冷気を放ちながら、マリアンネの瞳の奥にある知的な光を鋭く反射しました。それは、雪の結晶のように繊細で、かつ研ぎ澄まされた美しさでした。
「……悪くないわね。私の思考がクリアになった気がするわ。この色は、私の『知性』のドレスコードね」
マリアンネは眼鏡を外し、少し照れくさそうに、しかし満更でもなさそうに微笑みました。
続いて、控えめなエリーゼの番です。
「私なんて、何を着ても地味ですから……」と縮こまるエリーゼに、シャルロッテは「アプリコット・オレンジ」と「ひまわりイエロー」の布を持ってきました。
「エリーゼお姉様は、春のお日様なんだよ!」
明るい暖色系の布を当てた瞬間、エリーゼの頬の血色がパッと良くなり、周囲の空気がポカポカと温かくなりました。布は、優しく柔らかな光を放ち、彼女の愛らしさを百倍に引き立てました。
「わあ……! 私が、こんなに明るく見えるなんて!」
「すっごく可愛い! 元気な妖精さんみたい!」
全員で「可愛い!」「似合う!」の大合唱です。
最後に、シャルロッテの番です。
彼女は、「オーロラ・ホワイト」という、一見すると白だけど、光の加減で七色に変化する不思議な布を選びました。
彼女がそれを頭からすっぽりと被ると、布は部屋中のすべての色を反射し、シャルロッテ自身が小さな虹の発生源になったかのように輝き出しました。
銀色の髪と、七色の布が溶け合い、それはもう、夢のようにファンタジックな光景でした。
「私はね、みんなの色を全部混ぜた色だよ!」
モフモフも負けじと、余った布の端切れ(ゴールドとピンク)を首に巻いてもらい、ドヤ顔で鏡を見ています。
「みんな、最高傑作ね!」
「ええ、色彩の調和が完璧だわ」
「夢のようです……」
四人(と一匹)は、それぞれの「運命の色」を纏ったまま、サンルームの中で即席のファッションショーを始めました。
長い布の裾を引きずりながら、モデルのように歩き、ターンを決め、互いに投げキッスを送ります。
窓の外では、またしてもアルベルト王子とフリードリヒ王子が通りかかりましたが、今回は中の輝きがあまりにも強烈(※物理的に眩しかった)だったため、直視することさえできず、目を覆って退散しました。
「うおっ! なんだあの閃光は!」
「……美のエネルギーが臨界点を超えているようだ。退避しよう」
部屋の中は、外野のことなど気にせず、ただひたすらに「自分たちが可愛い」という事実に酔いしれる、甘く幸福な時間で満たされていました。
シャルロッテは、オーロラの布の中でくるくると回りながら、心から思いました。
女の子は、自分にぴったりの色を見つけたとき、魔法使いよりも強い魔法を使えるようになるのだと。




