第五百十七話「灰色の石像と、姫殿下の『冬の饗宴の王様』」
冬の初め、王城の庭園の噴水広場には、鉛色の空の下、一基の古い石像が立っていました。
それは、遥か昔の王を模した像で、剣を持ち、かつては威厳に満ちていたはずですが、今は風雨にさらされ、ただの冷たい石の塊として、寒風の中に晒されていました。
誰も足を止めないその像の足許に、シャルロッテとモフモフがやってきました。
シャルロッテは、バスケットいっぱいに、森で集めた「宝物」を持っていました。
「ねえ、モフモフ。この王様、なんだか寒そうで、退屈そうだね」
「ミィ(確かに、色がなくて地味だね)」
シャルロッテは、石像を見上げ、ある計画を思いつきました。物語の王子様のように身を削るのではなく、逆に、この王様を「世界で一番リッチで、みんなに愛される王様」に仕立て上げようというのです。
「よし! 王様、変身の時間だよ!」
シャルロッテは、光属性と土属性の魔法を指先に宿しました。
彼女はまず、バスケットから真っ赤なナナカマドの実を取り出しました。
魔法で実を房ごと浮かせ、石像の剣の柄と、石の瞳の部分に、そっと飾り付けました。
「はい、ルビーの目と、ルビーの剣だよ!」
灰色の顔に、鮮やかな赤色が灯り、像は急に生気を取り戻したように見えました。
次に、シャルロッテは黄金色に紅葉したイチョウの葉を大量に取り出し、風属性魔法で操りました。葉は石像の肩から背中にかけて、ふわりと貼り付き、まるで純金のマン
トを羽織ったかのようになりました。
「金の衣だよ! あったかそうでしょ?」
さらに、ヒマワリの種や、ドングリ、クルミといった木の実を、石像の足元や、広げた手のひらの上に山盛りにしました。
「これでもう、貧乏な王様じゃないよ。富める『幸福な王子様』だよ!」
作業を終えたシャルロッテとモフモフは、少し離れた茂みに隠れて、様子を伺いました。
しばらくすると、どこからともなく、冬の空腹を抱えた小鳥たちが、チチチッ、と鳴きながら集まってきました。
彼らは、石像の「ルビーの目(=木の実)」を見つけ、歓喜の声を上げてついばみ始めました。
リスたちが駆け寄ってきて、王様の手のひらの上のクルミを抱え込みました。
石像は、寒風に晒された孤独な岩ではなく、生命が集い、暖かな羽音と咀嚼音に包まれた、賑やかな「饗宴のテーブル」へと変わったのです。
小鳥が肩に止まり、リスが膝に乗る。
その光景は、まるで石像の王が、動物たちを優しく慈しみ、自分の富(=木の実)を分け与えているかのように見えました。
通りかかった庭師のハンスが、その光景に目を丸くしました。
「おや……。あの古びた像が、今日はまるで生きているようだ。鳥たちを従えて、なんと威厳があり、かつ優しげなことか」
ハンスは、石像が与えているのが、宝石や金ではなく、もっと切実に必要とされている「冬の糧」であることに気づき、温かい気持ちになりました。
茂みの中で、シャルロッテはモフモフに囁きました。
「ね、モフモフ。本当の宝石じゃなくても、みんなが嬉しそうなら、それが一番の宝物だよね」
モフモフも、自分の分のおやつを齧りながら、同意するように小さい尻尾を振りました。
夕暮れ時、木の実がすべて食べ尽くされると、石像は元の灰色の姿に戻りました。
しかし、その表情は、心なしか以前よりも満足げで、誇らしげに見えました。なぜなら、彼は今日一日、間違いなく「世界で一番幸福な王子」として、小さな命たちのお腹を満たしたからです。
シャルロッテは、空になったバスケットを持って、城へと帰りました。
犠牲を払うことなく、ただ「飾る」ことで生まれた幸福な時間は、冬の庭園に、静かで温かい記憶を残したのでした。




