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【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


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第五百一話「鉄壁の将軍と、青い鳥の『勘違いプロポーズ』」

 その日の午後、王城の騎士訓練場には、カンッ! カンッ! という硬質な音が、断続的に響き渡っていた。

 剣を交える音ではない。もっと小さく、しかし神経に障る音だ。


 音の発生源は、国境警備の英雄、「鉄壁のジークフリート」将軍の兜だった。

 彼は、直立不動で新兵たちの訓練を監督していたが、空から降ってくる「謎の飛来物」に悩まされていたのだ。


「……ぬう。またか」


 将軍が頭をさすると、そこには小指の先ほどの、つるりとした綺麗な小石が落ちてきた。

 上空を見上げると、一羽の美しい青い鳥――サファイア・ジェイ――が、旋回している。


 ジークフリート将軍は、歴戦の勘を働かせ、険しい顔でフリードリヒ王子に告げた。


「殿下。あの鳥は、ただの鳥ではありません。正確に私の兜の天頂部を狙って投擲を行っています。おそらく、敵国のスパイが訓練した『暗殺鳥』か、あるいは我々の集中力を削ぐための『精神攻撃』でしょう」


 フリードリヒも、深刻な顔で頷いた。

「確かに。これほど執拗に将軍を狙うとは。俺が弓で撃ち落とそうか?」


 訓練場は、「対空防御」の緊張感に包まれた。屈強な騎士たちが、たった一羽の小鳥を相手に、盾を構えようとしている。



 そこへ、シャルロッテがモフモフを連れて通りかかった。

 彼女は、騎士たちが空を睨みつけているのを見て、不思議そうに近寄ってきた。


「ねえ、将軍様。兄様。何をしているの?」

「おお、姫殿下。危険です、下がっていてください。空からの投石攻撃を受けております」


 将軍が、足元に落ちている数個の小石を指差した。どれも、川原にあるような、丸くて艶のある綺麗な石ばかりだ。


 シャルロッテは、空を飛ぶ青い鳥と、将軍のピカピカに磨き上げられた銀色の兜を交互に見た。

 そして、前世で見た動物ドキュメンタリーの知識を思い出し、吹き出しそうになるのをこらえた。


「あのね、将軍様。あれは攻撃じゃないよ」


「なんと? では、これは威嚇射撃ですか?」


「ううん。あれはね、『愛の告白』だよ!」


 その場にいた全員が、石になったように固まった。

 愛の告白? この強面の、岩のような将軍に? 鳥が?


 シャルロッテは、ニコニコしながら解説した。


「あの鳥さんはね、結婚相手を探しているの。そして、一番気に入った相手に、自分が一番きれいだと思う『宝石(=小石)』をプレゼントして、『僕と結婚してください!』ってお願いする習性があるんだよ」


 シャルロッテは、将軍の兜を指差した。


「将軍様の兜は、この訓練場で一番ピカピカで、キラキラしているでしょう? だから、あの鳥さんは、将軍様(の兜)を、世界で一番素敵なパートナーだと思っちゃったんだよ!」


 沈黙が流れた。

 そして次の瞬間、カンッ! と、また一つ、愛の(つぶて)が兜に当たって跳ねた。

 それはもはや敵襲の音ではなく、熱烈なラブコールのノック音に聞こえた。


 フリードリヒが、腹を抱えて笑い出した。

「ぶっ……! はははは! そうか、将軍! 貴殿はモテモテだな! 種族を超えて求愛されるとは、さすがは鉄壁の男だ!」


 ジークフリート将軍の赤銅色の顔が、さらに赤く染まった。

 敵の軍勢を前にしても眉一つ動かさない男が、小鳥の求愛に狼狽している。


「こ、これは……なんと面妖な……。しかし、求愛されているとなれば、無下にはできん……」


 将軍は、困り果てた顔で、兜の上に落ちてきた小石を拾い上げた。

 よく見ると、それは形も色も厳選された、見事な小石だった。鳥なりの、精一杯の贈り物なのだ。


「どうすればいいのですか、姫殿下。私は、鳥とは結婚できませんが」


「受け取ってあげて。そしてね、『ありがとう、でも僕には大きすぎるかな』って、優しく断ってあげるの」


 将軍は、咳払いを一つした。

 そして、空に向かって、兜を脱ぎ、深々と一礼した。


「……貴殿の気持ちは受け取った! 素晴らしい石だ。だが、我々は住む世界が違う! もっとふさわしい相手を見つけてくれ!」


 将軍の野太い声が響き渡ると、青い鳥は「チチッ」と残念そうに鳴き、しかし満足げに翼を翻して、森の方へと飛び去っていった。失恋したが、想いは伝わったといった風情だ。


 シャルロッテは、モフモフの頭を撫でた。

 モフモフも、足元にあった小石を一つ拾って、シャルロッテの手に乗せた。「ボクも好きだよ」という合図だ。


「ありがとう、モフモフ」


 その日の訓練は、いつもより和やかな雰囲気で終わった。

 ジークフリート将軍は、鳥からもらった小石を捨てずに、「自然からの勲章」として、執務室の机に飾ることにしたという。

 勘違いから始まった「攻撃」は、知識によって「ロマンス」に変わり、鉄壁の騎士の心を、ほんの少しだけ柔らかくしたのだった。

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