表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

497/595

第五百話「闇に浮かぶ緑の灯と、姫殿下の『森の深呼吸』」

 その日の夜、エルデンベルク王城の裏手に広がる原生林は、昼間に降った雨を含んで、重く湿った空気に満ちていた。

 月明かりさえ届かない深い木々の下は、漆黒の闇だ。

 しかし、シャルロッテは、庭師のハンスに連れられて、その暗闇の中を、泥だらけのブーツで進んでいた。


 華やかなドレスも、宝石も、ここにはない。

 あるのはただ、土と枯れ葉が発酵する、むせ返るような森の匂いだけだ。


「姫様。足元にお気をつけて。ここは、人間ではなく、森の住人たちの領域ですから」


 ハンスが持つランタンの灯りを、彼はわざと絞った。

 シャルロッテは、モフモフをしっかりと抱きしめた。モフモフの鼻が、湿った空気をクンクンと嗅ぎ、興奮したように小さく震えている。


「うん。ハンスさん。静かにね。森が起きちゃうからね」


 三人は、太い倒木が折り重なる、森の最も深い場所、「朽ち木の谷」へと降りていった。

 そこは、死んだ木々が土に還る場所であり、同時に、新しい命が生まれる揺りかごでもあった。


 ハンスが立ち止まり、ランタンの火を完全に消した。

 世界が、完全な闇に包まれる。


 一秒、二秒。目が闇に慣れてくる。


 すると、足元の闇の中から、ぼうっ……と、幽霊のような淡い光が浮かび上がってきた。


「わあ……」


 シャルロッテの息が、白い霧となって漏れた。

 そこには、倒木や湿った地面を覆うように、数え切れないほどの小さなキノコたちが、蛍光グリーンの光を放っていたのだ。

 一つ一つは頼りない光だが、数千、数万と集まることで、地面に「緑の天の川」が流れているようだった。


「姫様。これが、『夜光(ムーンライト)(マッシュルーム)』でございます」

 ハンスが囁くように言った。


 シャルロッテは、しゃがみ込み、光るキノコの一つに顔を近づけた。

 傘の裏側のひだ一本一本までが、自ら発光し、透き通るように輝いている。それは魔法ではなく、このキノコが生きるために備えた、純粋な生命の営みだった。


「すごいね、モフモフ。魔法を使っていないのに、こんなに明るいよ」


 シャルロッテは、魔法で光を強めたり、色を変えたりしようとはしなかった。

 この光は、枯れた木や落ち葉を養分にして、静かな時間の中で醸成されたものだ。人工的な手が加わる余地などない、完成された「自然の灯火」だった。


 静寂の中で、ポタリ、と雫が落ちる音が響く。

 その音に驚いて、小さな夜行性の羽虫が飛び立った。虫たちは、キノコの光に引き寄せられ、胞子を運ぶ手伝いをするのだ。


「……森は、眠っていないんだね」


 シャルロッテは感じ取っていた。

 この暗闇の中で、腐敗と再生、光と闇、虫と植物が、複雑に絡み合いながら、巨大な一つの生命として呼吸していることを。

 昼間の明るい庭園で見ている「綺麗な自然」は、ほんの一部に過ぎない。この湿って、少し不気味で、でも圧倒的に美しい夜の森こそが、生命の源なのだ。


「枯れた木が土に還り、その栄養がまた光になる。自然には、無駄なものは何一つございません」


「うん。終わることは、悲しいことじゃなくて、次の光になることなんだね」


 シャルロッテは、光るキノコの群生を見つめ続けた。

 それは、宝石のような硬質な輝きではなく、体温を感じさせるような、柔らかく揺らぐ光だった。


 しばらくして、遠くでフクロウが鳴いた。

 三人は、森の儀式を邪魔しないように、静かにその場を後にした。


 城に戻ったシャルロッテのブーツは泥だらけだったが、彼女の心は、あの幽玄な緑の光で洗われたように澄み渡っていた。

 彼女はベッドに入り、窓の外の闇を見つめた。

 あそこには、誰も知らない光が、今も静かに灯り続けている。


「おやすみ、森のランプさん」


 それは、華やかなパーティーの翌日にふさわしい、深く、静かで、豊かな夜の冒険だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ