第四百九十九話「春の庭の宝石箱と、乙女たちの『花の妖精ごっこ』」
春の陽光が降り注ぐ王城の温室は、百花繚乱の季節を迎えていた。
色とりどりの花が咲き乱れる中、シャルロッテは、イザベラ王女、マリアンネ王女、そして友人のエリーゼを招いて、とびきり華やかな「女子会」を開催していた。
「皆様、ごきげんよう! 今日はね、ここにあるお花を使って、世界に一つだけの『生きた宝石』を作るの!」
シャルロッテは、バスケットいっぱいに摘んだ花々をテーブルに広げた。
薔薇、スミレ、マーガレット、勿忘草。
どれも瑞々しく美しいが、すぐに萎れてしまうのが花の宿命だ。
「でもね、私の『キラキラ保存魔法』を使えば、この美しさをそのままアクセサリーにできるんだよ!」
シャルロッテは、一輪のピンクの薔薇を手に取り、光属性と水属性、そして少しの土属性(硬化)の魔法をかけた。
チリン、という涼やかな音と共に、薔薇の花びらが、まるで飴細工かクリスタルのように透き通った輝きを帯び、しかしその柔らかな質感は失われないまま、硬質化した。
「わあ……! 素敵!」
エリーゼが目を輝かせて身を乗り出した。
「ガラスのようですが、香りはそのまま残っていますわ!」
「さあ、みんなで変身タイムだよ! 今日はみんなで『花の妖精』になるの!」
四人の少女(と一匹の子熊)による、豪華絢爛なアクセサリー作りが始まった。
イザベラ王女は、深紅の薔薇を選んだ。
「私は、この情熱的な赤をチョーカーにしたいわ。首元を飾る、高貴なルビーのようにね」
彼女がデザインし、シャルロッテが魔法をかけると、薔薇は濡れたような艶めきを放つ、妖艶なチョーカーへと生まれ変わった。イザベラがそれを首に巻くと、彼女の白い肌に赤が映え、圧倒的な存在感を放った。
「完璧だわ。これなら夜会でも主役になれるわね」
マリアンネ王女は、紫陽花の小房と、幾何学的な形をした多肉植物を選んだ。
「花の配置には『黄金比』を取り入れるべきね。螺旋を描くように配置して、知的な美しさを表現してみせるわ」
彼女が作ったのは、複雑な構造を持つヘッドドレスだ。シャルロッテの魔法で、紫陽花の花びらがオパールのような遊色効果を帯び、動くたびに知的な光を散らす。眼鏡を外してそれを着けたマリアンネは、森の賢者のような神秘的な美しさを纏っていた。
エリーゼは、野に咲くシロツメクサと勿忘草を編み込んだ。
「私は、派手なものより、こういう素朴な冠が好きです」
シャルロッテが魔法をかけると、小さな花々は真珠とサファイアのように輝き出した。それを頭に乗せたエリーゼは、物語に出てくる可憐な花嫁のようだった。
そして、シャルロッテは、黄色いタンポポと、キラキラ光る朝露の雫(これは魔法で固めた)を使って、光のティアラを作った。
「私は、お日様の妖精だよ!」
銀色の髪に黄色のティアラが輝き、彼女が動くたびに、周囲に光の粒子が舞い散るようだった。
モフモフも負けてはいない。彼は、自分の首輪に、大きなひまわりの花(トパーズのように加工された)を飾ってもらい、誇らしげに胸を張った。
「ミィ!(どう、イケてるでしょう!)」
全員の「変身」が完了すると、温室は、ただの花園から、光り輝く舞踏会場へと変わった。
彼女たちは、互いの姿を鏡に映し、手を取り合って歓声を上げた。
「イザベラお姉様、女神様みたい!」
「マリアンネ様、その髪飾り、知的でとってもクールですわ!」
「エリーゼ、あなたは本当に守ってあげたくなる可愛らしさね」
「シャルは、もう存在そのものが光だわ!」
そこには、嫉妬も競争もなかった。
ただ、互いの「可愛い」を認め合い、高め合う、女の子特有の爆発的な肯定感だけがあった。
彼女たちは、光る花を身に纏い、温室の中で優雅にターンをしたり、ポーズを取ったりして、その瞬間だけの美しさを堪能した。
窓の外から、通りがかったアルベルト王子とフリードリヒ王子が、中の眩しさに目を細めた。
「……ううむ。中に入ろうと思ったが、あの輝きは我々には直視できないな」
「ああ。あそこは今、聖域だ。男が足を踏み入れれば、浄化されて消滅するかもしれん」
二人の王子は、賢明にも退散した。
温室の中では、お茶会の準備が始まっていた。
クリスタルのように輝く花々に囲まれ、甘い香りと笑い声に包まれた午後は、彼女たちの心に、「自分は可愛い、自分は輝いている」という、何よりの自信と幸福を植え付けた。
シャルロッテは、ティアラを直しながら、幸せそうに呟いた。
「女の子に生まれて、本当によかった! だって、こんなに可愛くキラキラできるんだもん!」
それは、魔法の力以上に、彼女たちの心が放つ輝きが世界を照らした、春の最高の一日だった。




