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【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


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第四百九十五話「コバルトの夜空と、姫殿下の『星めぐりの金平糖』」

 その夜、王城の尖塔の上空は、凍ったインクのように深く、透き通ったコバルトブルーに染め上げられていました。

 空気はキーンと張り詰め、まるで世界全体が巨大なガラスの器の中に入ってしまったかのようです。


 宮廷楽師のフェリクスは、眠れずに塔の回廊を歩いていました。彼の頭の中では、まだ書かれていない譜面が、カサカサと乾いた音を立てていました。

 ふと、彼は奇妙な音を耳にしました。


 スコーン、スコーン。

 キラ、キラ、シャン。


 それは、楽器の音ではありません。もっと硬くて、冷たくて、でもどこか甘い、不思議なリズムでした。


 フェリクスが音のする方へ向かうと、一番高いバルコニーに、シャルロッテが立っていました。

 彼女は、銀色の髪を夜風になびかせ、手には透明なガラスの瓶を持っています。隣には、モフモフが、夜空を見上げて、尻尾で床をペチペチと叩き、拍子を取っていました。


「……姫殿下? 何をされているのですか」


 シャルロッテは、振り返って、人差し指を唇に当てました。


「しっ。静かにね、フェリクスお兄さん。今、お星様が『降って』きているところなの」


 彼女は、ガラス瓶を高く掲げました。


「見て。オリオンの腕のあたりから、ポロン、ポロンって、音が落ちてくるでしょう?」


 フェリクスは耳を澄ませました。

 最初は風の音かと思われました。しかし、意識を集中すると、確かに聞こえるのです。

 星の瞬きが、光の速さで大気を震わせ、地上に届く頃には、極めて微細な、鈴のような、あるいは氷が触れ合うような音になっているのが。


 キン、コン。

 パララ、シャララン。


「これは……。光が、音になっている?」


「うん。そしてね、この音は、捕まえると『お砂糖』になるんだよ」


 シャルロッテは、光属性魔法と、ほんの少しの氷魔法を、ガラス瓶の口に膜のように張りました。

 すると、空から降り注ぐ見えない「星の音」が、瓶の口に触れた瞬間、パチッ! と小さな火花を散らし、実体化しました。


 カラン、コロン。


 瓶の底に、金や銀、薄い青色の、小さなトゲトゲした粒が溜まっていきます。

 それは、まるで「金平糖」のようでした。


「わあ……。シリウスの音は、青くて大きいね。プレアデスの音は、小さくて、シャワシャワしてる」


 シャルロッテは、瓶を振りました。

 ジャラジャラと、星屑が触れ合う音がします。それは、この世で一番きれいな打楽器の音でした。


「はい、フェリクスお兄さん。あげる」


 シャルロッテは、青白く光る一粒を、フェリクスの手のひらに乗せました。

 それは冷たくて、触れると指先がビリビリと痺れました。


「食べてみて。きっと、いい音がするよ」


 フェリクスは、恐る恐るその「星の音の結晶」を口に含みました。


 ガリッ。


 噛み砕いた瞬間。

 口の中に、冷たいレモンのような酸味と、強烈な光が広がりました。

 そして、脳の奥で、ティン! と、高く澄んだハープの音が響き渡ったのです。


「!!」


 それは味覚であり、聴覚であり、視覚でした。

 星の光が、舌の上で溶けて、音楽になって体中に流れ込んでいく感覚。


「……ああ。なんてことだ。私は今まで、耳だけで音楽を作ろうとしていた」


 フェリクスは、夜空を見上げました。

 そこにあるのは、ただの点滅する光ではありません。

 宇宙全体が、巨大なオルゴールのように回転し、無数の星々が、それぞれの音色で、壮大な交響曲シンフォニアを奏でているのです。


 シャルロッテは、もう一粒、自分の口に放り込みました。


「んー、美味しい! これは、アンタレスの味だね。ちょっとだけ、焦げたキャラメルの味がするよ」


 モフモフも、「ミィ!」とねだって、一粒もらいました。彼はそれを舐めながら、目を回すように嬉しそうにグルグルと喉を鳴らしました。


 今日も特別な事件や、解決すべき問題はありませんでした。

 ただ、冷たく透き通った夜の中で、星の光を「音」として聴き、それを「お菓子」として味わうという、不思議で美しい時間が流れていただけです。


 フェリクスは、ポケットからメモ帳を取り出し、五線譜を走り書きしました。

 しかし、そこに書かれたのは音符ではなく、「青い光」「冷たい酸味」「銀色の振動」といった、感覚の言葉たちでした。


「姫殿下。この夜の味は、一生忘れません」


「うん。また、いい音が降ってきたら、一緒に集めて食べようね♪」


 二人は、瓶の中で微かに光り続ける星屑の音を聞きながら、コバルト色の夜空が、ゆっくりと朝の紫へと変わっていくのを眺めていました。

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