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【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


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第四百八十話「十本の指の宝石箱と、乙女たちの『魔法のネイルサロン』」

 その日の午後、王城の温室の隣にあるガラス張りのサンルームは、かつてないほどの「キラキラ」とした熱気に満ちていた。


 テーブルの上には、数百種類もの小瓶がずらりと並んでいる。中身は、砕いた宝石を溶かし込んだ「ジュエル・ポリッシュ」や、朝露の輝きを閉じ込めた「ドロップ・コート」など、夢のような塗料ばかりだ。


 シャルロッテは、袖をまくり上げ、やる気満々の顔で宣言した。


「さあ、みんな! 今日はついに『指先だけの舞踏会』を開くのよ!」


 集まったのは、ファッションリーダーのイザベラ王女、精密作業が得意なマリアンネ王女、そして手先が器用なエリーゼ。

 彼女たちは今日、互いの爪をキャンバスにして、最高の魔法ネイルアートを施し合うことになっていたのだ。


「私の指先を預けるのだから、最高傑作をお願いね」

 イザベラは、優雅に手を差し出した。彼女の担当はマリアンネだ。


「ええ。爪の曲率と光の屈折率を計算して、最も指が長く美しく見えるデザインにするわ」

 マリアンネは、虫眼鏡と極細の筆を構え、職人のような目つきで作業を開始した。


 一方、シャルロッテはエリーゼの爪を担当していた。

「エリーゼお姉様の爪は、桜貝みたいで可愛いね。今日はね、この爪の中に『小さな水族館』を作るよ!」


 シャルロッテは、水属性と光属性の魔法を、筆先にちゅるんと乗せた。

 彼女が爪の上に青い塗料を乗せると、それは単なる色ではなく、本当に小さな「水」の膜になった。そして、その中を、金色のラメで描いた極小の魚が、スイスイと泳ぎ始めたのだ。


「わあ……! 動いています! 爪の中に海がありますわ!」

 エリーゼは、自分の指先を見つめて感嘆の声を上げた。指を動かすたびに、中の水が揺れ、魚たちがキラキラと方向を変える。


「すごいでしょ? それにね、暗いところに行くと、深海魚みたいに光るんだよ」


 隣では、マリアンネがイザベラの爪に「幾何学の薔薇」を描いていた。

 温度によって色が変わる特殊な魔法顔料を使い、指先が温かいときは情熱的な赤に、冷たいときは高貴な紫に変化するグラデーションを作り出している。

「完璧だわ。ナノ単位のズレもない」

「あら、素敵。これなら退屈な夜会でも、指先を見ているだけで楽しめそうだわ」

 イザベラは、妖艶に指を動かしてみせた。


 次は、イザベラがシャルロッテの爪を塗る番だ。

「シャルには、これが似合うわ。『お菓子の家』よ」

 イザベラは、ぷっくりと膨らむ特殊なジェルを使い、シャルロッテの爪の上に、立体的でおいしそうなクッキーやキャンディの飾りを乗せていった。

 しかも、シャルロッテが甘い香りの魔法を加えたため、指先から本当にバニラとストロベリーの香りが漂ってくる。


「くんくん。わあ、すごいいい匂い! 食べたくなっちゃう! でも我慢する!」

 シャルロッテは、自分の十本の指が、それぞれ違うデザートになったのを見て大喜びした。


 最後に、エリーゼがマリアンネの爪に挑んだ。

「マリアンネ様には、夜空を描きます」

 エリーゼは、深い藍色をベースに、銀の星々を描き込んだ。そして、シャルロッテが横から「動けー!」と魔法をかけると、爪の中の星空がゆっくりと回転し、時折、小さな流れ星が流れるようになった。

「ロマンチックね……。私の指先が、プラネタリウムになったみたい」

 マリアンネは、うっとりと自分の手を見つめた。


 全員の施術が終わると、四人はテーブルの上に手を並べた。

 動く水族館、変色する薔薇、甘い香りのスイーツ、流れる星空。

 四十本の指先が、それぞれ異なる小さな世界を持って輝いている。


「ねえ、みんな。指のダンスをしようよ!」


 シャルロッテの提案で、彼女たちはテーブルの上で指を躍らせた。

 タカタカ、トントン。

 指先がテーブルを叩くたびに、シャルロッテが付与した「音の魔法」が発動し、ピアノやハープ、鈴のような可愛らしい音が響き渡った。


 サンルームの外では、通りがかったアルベルト王子とフリードリヒ王子が、中の様子を覗き込んでいた。

 しかし、ガラスの向こう側は、あまりにもキラキラとした「女子だけの聖域」になっており、男たちは入る隙間を見つけられなかった。


「……入るべきではないな。あの輝きは、我々の理解を超えている」

「ああ。だが、楽しそうで何よりだ。シャルの指がクッキーになっているのは、少々心配だが」


 二人の王子は、苦笑しながら退散した。


 部屋の中では、笑い声が絶えなかった。

 お互いの爪を褒め合い、「次はどんな魔法をかけようか」と夢を膨らませる時間は、どんな高価な宝石よりも、彼女たちの心を華やかに彩っていた。


 シャルロッテは、自分の指先のキャンディを見つめて、にっこりと微笑んだ。


「女の子って、指先ひとつで、こんなに幸せになれるんだね!」


 それは、小さな爪の上に描かれた、世界で一番キラキラした魔法の午後だった。

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