表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

462/500

第四百六十五話「千年の結び目と、姫殿下の『お花の開花術』」

 その日の午後、王城の謁見の間は、知的な静寂と、ピリピリとした緊張感に包まれていた。

 遠い東方の「知恵の国」から訪れた賢者、ソロンが、王国の知恵を試すために、一つの奇妙な物体を差し出していたからだ。


 それは、太い麻縄が幾重にも、複雑怪奇に絡み合った、巨大な球体だった。始まりも終わりも見えず、どこを引けば緩むのか皆目見当がつかない。

 いわゆる、「千年の結び目」と呼ばれる難問だ。


「エルデンベルク王国の賢明なる皆様。この結び目を、一本の縄に戻すことができたなら、我が国は貴国と永劫の友好を結びましょう」


 ソロンの挑戦を受け、まずはアルベルト王子が挑んだ。彼は数式と幾何学を駆使し、結び目の構造を解析しようとしたが、あまりの複雑さに額に汗を浮かべ、一時間で降参した。


 次にフリードリヒ王子が挑んだ。「力づくで引っ張れば!」と怪力を込めたが、結び目は逆に固く締まるばかりだった。


 マリアンネ王女も、魔法による透過透視を試みたが、「この結び目にはトポロジー的な矛盾が含まれているわ!」と叫んで匙を投げた。


 賢者ソロンは、静かに微笑んでいた。


「やはり、解けませんか。これは『解こうとする心』を迷わせる結び目なのです」


 王城の誰もが諦めかけた、その時。

 シャルロッテが、モフモフを抱いて、その巨大な縄の塊の前にトテトテと歩み寄った。


「ねえ、ソロンおじいさん。これ、解かなきゃいけないの?」


 ソロンは眉を上げた。


「もちろんです、姫様。解かなければ、ただの絡まった縄です」


 シャルロッテは、首を横に振った。彼女の目には、その複雑な塊が、「混乱」ではなく、「なりたい形になれずに、うずくまっているつぼみ」のように見えていた。


「違うよ。この縄さんはね、一本の線に戻りたいんじゃないの。『ぎゅっ』てしてるのが好きなの。でも、今のままだと苦しいから、もっと素敵な『ぎゅっ』にしてほしいんだよ」


 シャルロッテは、アレクサンドロス大王のように剣を抜くことはしなかった。

 その代わり、彼女は、光属性と風属性の魔法を、指先に纏わせた。


「いくよ! 開花(ブルーム)!」


 シャルロッテは、結び目を「解く」のではなく、特定のループを「引っ張り出し」、別のループを「押し込む」という操作を、魔法の風で行った。


 彼女がやっているのは、あやとり、あるいは巨大なリボン結びのアレンジだった。


 グググ……ッ。


 縄の塊が、生き物のように蠢いた。

 シャルロッテは、絡まりを否定せず、その複雑さを利用して、立体的な構造へと組み替えていく。

 結び目は、解けるどころか、さらに複雑に、しかし規則的に絡み合い――。


 ポンッ!


 空気の弾ける音と共に、巨大な縄の塊は、一瞬にして姿を変えた。

 そこにあったのは無数のループが幾何学的に重なり合い、まるで大輪のダリアの花のように咲き誇る、巨大な縄のオブジェだった。


 結び目は一つも解けていない。しかし、その姿はもはや「難問」ではなく、「芸術」だった。


「わあ! できた! 『千年の縄のお花』だよ!」


 謁見の間は、静まり返った。

 それは、ルール違反とも言える解決だった。しかし、目の前にある造形美は、誰も否定できないほど愛らしく、完成されていた。


 賢者ソロンは、口をあんぐりと開け、やがて膝を打って大笑いした。


「ハッハッハ! これは参った! 私は()()と言ったが、まさか()()()()()とは!」


 ソロンは、シャルロッテの前に跪いた。


「姫様。あなたは、過去の誰もが囚われていた『解決=元に戻す』という常識を、一刀両断にされましたな。困難を、そのまま美しさに変えてしまう……これぞ、王者の知恵です」


 アルベルト王子は、眼鏡を押し上げ、感嘆のため息をついた。


「絡まった問題を、無理に解きほぐすのではなく、新しい意味を与えて再構築する……。シャルロッテは、外交の極意さえも無意識に実践しているのか」


 シャルロッテは、縄の花の中心に、モフモフをちょこんと座らせた。

 モフモフは、縄の感触が気に入ったのか、バリバリと爪を研ぎ始めた。


「えへへ。だって、一本の紐に戻っちゃうより、きれいなお花になったほうが、ずっと可愛くて楽しいもん!」


 その日の午後、難問だった「千年の結び目」は、王城の玄関を飾る、最もユニークで愛らしいモニュメントとなった。


 「解決しない解決」こそが、時に世界を一番美しくするということを、シャルロッテは笑顔で証明したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ