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【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


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第四百五十五話「螺旋の回廊と、姫殿下の『お急ぎのワルツ』」

 その日の午後、王城の東棟と西棟を結ぶ「長い回廊」は、いつも以上に慌ただしい空気に包まれていた。


 隣国からの急な使者の来訪、厨房でのディナーの準備、そして騎士団の装備点検が重なり、城の使用人たちは分刻みのスケジュールで走り回っていたのだ。


 しかし、この回廊には、建国当初の茶目っ気ある魔法使いがかけた、ある古い「いたずら」が施されていた。それは、城内の魔力濃度が高まると稀に発動する、とんでもない結界だった。


 その名も、『急がば回れ』の結界。


 最初に異変に見舞われたのは、書類の山を抱えて急いでいた文官だった。

「急がねば! アルベルト殿下が待っておられる!」

 彼が小走りに駆け出した瞬間、彼の足は前ではなく、横へと滑った。

 クルッ。

 彼は、優雅に一回転した。

「おっと!?」

 体勢を立て直そうと足を速めると、今度はさらに勢いよく、クルクルッと二回転した。

 この結界は、「移動速度」を強制的に「回転運動」へと変換してしまうのだ。速く動こうとすればするほど、その場でのスピンが高速化するという、物理法則を無視した呪いだった。


 次に通りかかったのは、遅刻しそうになっていたフリードリヒ王子だった。

「ええい、どけどけ! 俺は急いでいるんだ!」

 彼が力強く地面を蹴った瞬間、その強靭な脚力はすべて回転エネルギーに変わった。

 ギュルルルルル!

 フリードリヒは、まるで独楽のようにその場で高速回転を始めた。

「目が! 目が回る! なぜ前に進まないんだ!?」


 回廊は、あっという間にカオスと化した。

 スープを運ぶ給仕は、皿を水平に保ったまま優雅なつま先旋回(ピルエット)を決め、伝令の兵士はブレイクダンスのように床を転がっている。

 誰も彼もが、焦れば焦るほど、目的地にたどり着けず、その場で華麗に舞い踊っていた。


 そこへ、シャルロッテがモフモフを抱いて通りかかった。

 彼女は急いでいなかった。おやつの時間が終わって、のんびりと部屋に帰る途中だったのだ。

 だから、彼女だけは()()()()()()()()()()()


「あれ? みんな、ダンスの練習?」


 シャルロッテは、高速回転しているフリードリヒや、優雅にターンしている文官たちを見て、目を丸くした。

 普通なら、「大変だ、魔法を解除しなきゃ」となるところだが、シャルロッテの感性は違った。


「楽しそう! ねえ、モフモフ。私たちも踊ろうよ!」


 シャルロッテは、モフモフを床に下ろした。そして、「急ぐふり」をして、タタタッと駆け出した。

 ふわっ。

 彼女の体は、ふわりと重力を失い、パステルカラーのドレスを花のように広げて、くるりと回った。


「わあ! 目が回るけど、空を飛んでるみたい!」


 それは、移動の不便さを「アトラクション」に変える魔法だった。

 シャルロッテは、回転の遠心力を利用して、隣で回っていたメイドの手を取った。


「お姉さん、一緒に回ろう!」

「ひ、姫様!? ああ、でも、止まりませんわ~!」


 二人は手を取り合い、メリーゴーランドのようにクルクルと回った。

 それを見たフリードリヒも、回転のコツを掴んだのか(あるいは諦めたのか)、回転しながら妹に近づいてきた。


「シャル! 目が回るが、これはこれで、剣の回転斬りの修行になるかもしれん!」

「兄様、すごい勢いだね! 風車みたい!」


 騒ぎを聞きつけたアルベルト王子が、回廊の入り口に現れた。彼は冷静に状況を分析しようとしたが、目の前の光景――全員が強制的にワルツやバレエを踊らされている――に、眼鏡をずり落とした。


「……これは、古い文献にある『急がば回れ』の結界か。解除コードは……」


 アルベルトが魔法を解こうとした時、シャルロッテが回転しながら優雅に兄に声をかけた。


「アルベルト兄様! 解いちゃだめ! 今、みんなで『お急ぎの舞踏会』をしてるの!」


 見れば、最初は焦っていた使用人たちも、シャルロッテの笑い声につられて、自分の意図せぬダンスを楽しみ始めていた。

 転びそうになったら回ればいい。進まないなら、踊ればいい。

 焦燥感は笑いへと変わり、回廊は奇妙な一体感に包まれていた。


 アルベルトは、ため息をつき、そして苦笑した。

「……まあいい。急ぐ案件は、書類が届かないことで、向こうも察するだろう」


 アルベルトは、あえて「小走り」で回廊に入った。

 クルッ。

 知性派の王子が、不器用に一回転する姿に、シャルロッテとフリードリヒが歓声を上げた。


「兄様、ナイスターン!」

「アルベルト兄上、軸がぶれているぞ!」


 その日の午後、王城の回廊は、目的地にたどり着くことよりも、その場の回転を楽しむ人々で溢れかえった。

 「急がば回れ」。

 昔の人は、もしかすると、「急いでいる時こそ、一度立ち止まって(あるいは回って)、笑う余裕を持ちなさい」と言いたかったのかもしれない。


 シャルロッテは、目を回して千鳥足になりながらも、モフモフと一緒に、最高に楽しい「寄り道」を満喫したのだった。

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