第四百十八話「地下水路の孤独と、姫殿下の『冷たい水の連帯』」
その日の深夜、王城の最も古い区域にある地下水路は、ひんやりとした冷気と、絶え間なく流れ続ける水の音に満ちていた。その冷たい水路の奥深くで、一人の水路調査員、リヴァイアが、孤独に作業を続けていた。
リヴァイアは、水路の異常を感知する魔導具を手に、黙々と進んでいた。彼の仕事は、誰にも知られず、王城の生命線である水を守ること。しかし、その孤独な献身は、彼自身に「自分は、世界の流れから切り離された存在だ」という、静かな諦念を与えていた。
「この冷たい水は、世界の真実だ。愛も情熱も、この水の冷たさの前では、一瞬で消え去る」
リヴァイアは、水路の冷たさを、「孤独な真実」として受け入れていた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、その水路の静寂の中に、音もなく現れた。彼女の銀色の巻き髪は、水の反射光を浴びて、青い光を放っていた。彼女の目には、リヴァイアが、「冷たい真実」という名の、見えない鎖に囚われているのが見えていた。
「ねえ、リヴァイアお兄さん。こんな冷たいところで、一人でいるのは、全然可愛くないよ」
リヴァイアは、突然の姫様の出現に驚愕した。
「ひ、姫様!? おそれながら、ここは王族が立ち入る場所ではございません! この冷たい水は、非常に危険です!」
シャルロッテは、彼の冷たい警告を否定しなかった。その代わりに、「冷たさ」が、「孤独」ではなく、「愛の静かなる連帯」の証であるという哲学を提示した。
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シャルロッテは、水路の冷たい水に、そっと手を浸した。そして、光属性と水属性の魔法を融合させた。
彼女の魔法は、水の温度を変えるのではない。その代わりに、水の分子一つ一つに、「リヴァイアの献身的な孤独」と「王城の住人の、水への無意識の感謝」という、二つの異なる感情の波動を、光の粒子として定着させた。
シャルロッテは、リヴァイアに語りかけた。
「ね、お兄さん。この冷たい水はね、一人で流れているんじゃないよ。お兄さんの足元を流れているこの水は、王城のみんなの、無意識の感謝を、優しく運んでいるんだよ。だから、冷たい水の中でも、お兄さんは、みんなと手をつないでいるの」
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リヴァイアは、シャルロッテの言葉に導かれ、水路の冷たい壁に触れた。彼の指先に伝わってきたのは、以前のような「孤独な冷たさ」ではなく、「王城の全ての人々の、静かな愛と感謝の温もり」だった。水路は、もはや「孤独な真実」ではなく、「愛の連帯が流れる、温かい動脈」へと変貌していた。
リヴァイアは、涙ぐんだ。彼は、自分の孤独な献身が、「愛の循環」という、最も高貴な役割を担っていたことを悟った。
「姫様……私は、冷たい水に、孤独という真実しか見出せませんでした。しかし、あなたの愛は、冷たい水の奥に、愛の温かい連帯が流れていることを教えてくれました。わたくしは、もう一人ではありません」
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、一人ぼっちの冷たい水よりも、みんなと愛という名の温かい手をつないでいる水のほうが、絶対可愛いもん!」
その日の深夜、地下水路は、シャルロッテの愛の哲学によって、「愛の連帯は、孤独な真実を、温かいものへと変える」という、温かい真理に満たされたのだった。




