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【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


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第四百十六話「黄金の香油と、姫殿下の『物語の無限連鎖』」

 その日の午後、王城の謁見の間は、遠い東方の砂漠の国の香りと、豪華な絹の衣装の微かな摩擦音に満ちていた。シャルロッテは、モフモフを抱き、ルードヴィヒ国王の隣に座っていた。


 謁見の間の中央に立つのは、大交易都市を持つ国の王である、老いた豪商、アリフ・バザールだった。アリフ王は、強大な経済力を持つが、彼の心は、「人生の物語の欠如」という、静かな絶望に囚われていた。


 アリフ王は、長年の交易で、富の全てを手に入れた。しかし、その過程で、彼は、人間的な情熱や物語を犠牲にしてきた。彼の持参した献上品は、すべてが「計算された価値」を持つ品ばかりだった。



 アリフ王は、献上品の中でも最も高価な、黄金の香油の瓶を国王の前に捧げた。


「陛下。この香油は、砂漠の秘薬であり、その香りは、一瞬の幸福を約束します。しかし、香油の効能は、一度きり。物語とは違い、二度と同じ幸福を語ることはできません」


 アリフ王は、富は有限であり、幸福もまた有限であるという、冷たい哲学的結論に達していた。



 シャルロッテは、アリフ王の持つ「幸福の有限性」という、冷たい美学を感知した。彼女の目には、王の献上品が、「孤独な富の象徴」として映っていた。


「ねえ、アリフ王様。香油はね、一回で終わるんじゃなくて、みんなで、何度も、優しく分かち合うものだよ」


 アリフ王は、シャルロッテの無邪気な指摘に、戸惑った。


「お言葉ですが、姫様。香油は、一度揮発すれば、二度と戻りません。幸福も、一度味わえば、その記憶は薄れる。それが、現実の冷徹な法則です」


 シャルロッテは、アリフ王の「有限性の法則」を、「物語の無限性」という新しい哲学で打ち破ることにした。



 シャルロッテは、アリフ王の献上した黄金の香油の瓶に、そっと触れた。そして、光属性と時間魔法を融合させた。


 彼女の魔法は、香油の揮発速度を操作するのではない。その代わりに、香油の分子一つ一つに、「この香油を嗅いだ人の、最も純粋な愛の記憶」を、微細な光の物語として定着させた。


 シャルロッテは、アリフ王に、新しい儀式を提案した。


「ね、王様。この香油はね、語るための道具なんだよ。王様が、誰かに香油を塗ってあげたら、その人は、自分の心の中の、一番愛しい物語を、王様に教えてあげるの。そして、王様は、その物語を、次の人に、香油と一緒に伝えてあげるんだよ」



 アリフ王は、シャルロッテの提案に従い、自らの手の甲に、香油を少量塗布した。その瞬間、彼の心に、遠い昔、貧しい吟遊詩人だった頃の、「愛する人に、初めて詩を捧げた情熱の物語」が、じわじわと鮮烈に蘇った。


 アリフ王は、目を閉じ、香油の香りを通して、若き日の自分自身の熱狂的な愛の波動を感じていた。彼は、今、この謁見の間で、時を超えた情熱の王として立ち上がろうとしていた。



 アリフ王は、老いた肉体を震わせ、しかし、その声は若き日の情熱を取り戻し、朗々と歌い始めた。彼の声は、砂漠の風のような乾いた響きを持ちながらも、愛の情熱によって、湿った熱を帯びていた。


「おお、我が生命の泉よ、我が心臓の黄金の砂よ!」


「貴女の瞳は、夜空の最も静かな星。されど、その一瞥は、大交易都市の全市場をも、一瞬にして私に忘れさせる!」


 アリフ王は、その情熱的な朗唱に合わせて、光属性と時間魔法の波動を、香油の瓶へと注ぎ始めた。その瞬間、黄金の香油の瓶から、微細な、七色の光の粒子が噴き出し、謁見の間全体に舞い上がった。


 彼は、若き日の自分自身が、愛する女性に詩を捧げた時の、一瞬の、宇宙的な歓喜を、王族全体に、感情の波として共有させた。


「私は富を求めず!権力を望まず! ただ、貴女の髪に触れる、一瞬の風の記憶があれば、それで我が人生は、芳醇な物語に満たされる!」


「ああ、その微笑みこそ、この砂漠の国で、永遠に涸れない、命の水である! 我が魂は、貴女の愛の前に、永遠の奴隷となることを誓う!」



 アリフ王の朗唱は、謁見の間の冷たい論理の空気を打ち破った。


 ルードヴィヒ国王は、目頭を押さえ、若き日の王妃との出会いを思い出し、涙ぐんだ。王妃エレオノーラも、静かに微笑み、アリフ王の「愛の献身」という名の熱狂的な芸術を、心から享受した。


 シャルロッテは、モフモフを抱きしめ、にっこり微笑んだ。


 彼女の魔法は、アリフ王の「物語」が、単なる過去の記憶ではなく、「愛は、時間を超越し、魂を熱狂させる力を持つ」という、普遍的な真実を証明するための、温かい触媒となっていた。


 アリフ王は、その物語を、ルードヴィヒ国王に、静かに語り終えると、シャルロッテの手の甲に、恭しくキスをした。彼にとって、富の全てよりも、この「愛の物語」を語りきれたことこそが、最高の富だった。



 ルードヴィヒ国王は、静かに涙を拭い、アリフ王に語りかけた。


「アリフ王よ。あなたの朗唱は、この王国の富の全てよりも尊い。あなたの献上した香油は、物語の種だ。我々も、その愛に応えよう」


 国王は、アリフ王の愛の物語を、「王国の愛の記録」として、アリフ王に返す代わりに、「王妃との出会いの物語」という、新しい物語を、魔法により香油の瓶に込めて、アリフ王に返した。


「物語の交換と、幸福の連鎖」が、王国の外交の場で始まった。アリフ王の献上した香油は、有限な富ではなく、無限の物語の種となった。


 アリフ王は、王城を去る際、涙ぐんだ。


「姫様。わたくしは、富は有限だと信じていました。しかし、あなたの愛は、幸福は、物語という名の交換によって、無限に連鎖することを教えてくれました。わたくしの旅は、今日から、富の追求ではなく、物語の収集の旅となります」


 シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。


「えへへ。だって、一瞬で終わる香油よりも、みんなで、永遠に語り継げる物語のほうが、絶対可愛いもん!」


 その日の午後、王城は、シャルロッテの愛の哲学によって、「幸福は、愛という名の物語の無限連鎖によって完成する」という、温かい真理に満たされたのだった。

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