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【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


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第三百九十二話「指先の雪と、姫殿下が教える『沈黙の対話』」

 その日の午後、王城の療養棟は、冬の冷たい光と、薬草の匂いに満ちていた。シャルロッテは、モフモフを抱き、ベッドサイドに座っていた。


 ベッドに横たわるのは、老婦人エミーリア。 


 長年の献身的な慈善活動によって、彼女は視力と聴力をほとんど失い、外界との接触を絶たれていた。彼女の心は、「愛を与え続けた結果、愛を受け取る感覚を失ってしまった」という、静かな孤独に囚われていた。


 エミーリアの主治医である、女性の医師ベアトリスは、冷静な表情で脈を測っていた。ベアトリスは、医学の論理に従い、エミーリアの体調を回復させようとしていたが、その心に巣食う「孤独」には、手立てがなかった。


「姫様。エミーリア様の容態は安定していますが、心が外界との接触を拒否しています。私の持つ医学の知識は、この精神的な沈黙を破ることはできません」


 ベアトリスの言葉は、静かな状況報告でありながら、医学の限界という冷徹な真実を含んでいた。



 エミーリアは静かに自分の半生を振り返っていた。


 ああ、わたしの世界は、静寂と闇の冷たい牢獄です。かつて、わたしは自分の指先を使い、貧しい人々の傷を癒し、愛を分け与えてきました。しかし、今はその指先が、何にも触れようとしません。誰かの愛を受け取ることが、わたしには許されない……献身の誓いを破る「罪」のように感じられるのです。わたしが愛を与え続けた結果、私の指先は、愛を受け取る感覚を、永遠に失ってしまったのかもしれません。


 神よ、これはわたしにくだされた罰なのでしょうか? あるいは人間には感知し得ない恩寵なのでしょうか……。



 シャルロッテは、エミーリアの動かない手に、そっと触れた。彼女の共感魔法は、エミーリアの心が、「誰かに触れること」を、「愛を乞う罪」として拒否していることを感知した。


 シャルロッテは、エミーリアの「拒絶の沈黙」を、「愛の言語」で満たすことを選んだ。


 シャルロッテは、療養棟の窓を開け、掌に、外の冷たい雪を数片受け止めた。そして、その雪を、エミーリアの、感覚を失ったかのような手のひらに、そっと置いた。


 そして、光属性と水属性の魔法を融合させた。


 彼女の魔法は、雪の冷たさを、「愛という名の、静かな刺激」へと変換させ、雪が溶けて水になる一瞬の過程を、「世界の始まり」という、温かい感覚の波動として、エミーリアの指先に送り込んだ。



 わたしの手のひらに、冷たい、しかし優しい感触が置かれました。それは雪だと直感しました。そして、その冷たさは、わたしの孤独な牢獄の壁を、微かに揺るがしました。この冷たさの中に、わたしは、かつて助けを求めてきた人々の、「生の切実さ」と同じ、温かい衝動を感じました。


 その時、小さな指が、わたしの手のひらに、文字を綴り始めました。一文字、一文字、ゆっくりと。


 「あ」「い」……愛。


 そして、その指の動きから、「あなたは、愛を与え続けてきた。だから、今度は、それを受け取ってもいい」という、揺るぎない、温かい意志の光が、わたしの心臓に流れ込んできました。



 シャルロッテは、エミーリアの手のひらに、指でゆっくりと文字を綴った。


「エミーリアおばあ様。あなたの愛の指先は、献身を誓いました。でも、愛はね、受け取る指先がなければ、与える指先も、本当は寂しいんだよ。愛の循環は、あなたから始まって、あなたでは終わらないの。あなたに、愛を返す人がいる。その愛を受け取るのが、あなたの新しい献身だよ」


 シャルロッテは、エミーリアの手のひらに、モフモフの柔らかい毛皮をそっと触れさせた。


「このふわふわもね、あなたが愛を注ぐのを、ずっと待っているんだよ」



 エミーリアは、その指の動きと、モフモフの柔らかさから伝わる愛の波動を、心から理解した。彼女の沈黙は破られ、失われた感覚の代わりに、「触覚を通じた愛の言語」という、新しい世界を手に入れたのだ。彼女は、愛を与え続けることの真の完成は、愛を無条件に受け取ることにある、という真理を悟った。


 エミーリアは、初めて長年の孤独から解放された。

 静かな涙を流し、モフモフの柔らかい毛皮を、優しく、しかし力強く握りしめた。


 ベアトリス医師は、その光景を、冷徹な観察眼で記録していた。彼女の論理は、「愛という非合理な要素が、生命の安定を決定する」という、新しい医学的真実を突きつけられていた。


「姫様……。これは、愛の言語です。あなたは、献身の裏に隠された、エミーリア様の自己否定という呪いを、愛の循環という、新しい献身の誓いで満たしたのですね」


 シャルロッテは、エミーリアの手を優しく握り、にっこり微笑んだ。


「えへへ。だって、愛の指先はね、優しさで満たされるのが、一番可愛いんだもん!」


 その日の午後、療養棟は、シャルロッテの愛の哲学によって、「愛の献身は、愛の受容によって、初めて完成する」という、温かい真理に満たされたのだった。

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