第三百七十二話「騎士の速さと、シャルロッテの『愛の回り道競争』」
その日の午後、王城の騎士訓練場は、熱狂的な競争の空気に満ちていた。フリードリヒ王子は、騎士団の新人隊員を率いて、「速さこそ最高の美徳」という信念のもと、障害物競走の訓練に挑んでいた。
訓練の目的は、最短時間でゴールすること。フリードリヒ王子は、「無駄な時間を一切排除した、合理的で直線的な速さ」を追求していた。
「速さこそ、騎士の誇りだ! 一分の逡巡も、一秒の遅れも、許されない!」
フリードリヒ王子にとって、速さは「愛の献身」を裏打ちする、絶対的な論理だった。
◆
シャルロッテは、モフモフを抱き、訓練場の隅に座っていた。彼女の目には、フリードリヒ王子たちの「速さへの執着」が、「ユーモアと愛の享受」という、最も大切なものを排除しているのが見えていた。
「ねえ、お兄様。あんまり速すぎるのは、全然可愛くないよ」
フリードリヒ王子は、シャルロッテの純粋な指摘に、顔を上げた。
「違うぞ、シャルロッテ。速さこそ、愛する者を守るための絶対的な武器だ。のんびりしていては、誰も守れん!」
シャルロッテは、フリードリヒ王子の「速さの絶対性」という固定観念を、「愛のユーモア」という新しい哲学で導くことにした。
◆
シャルロッテは、訓練場の真ん中に立ち、光属性と変化魔法を融合させた。
彼女の魔法は、障害物競走の最短ルートに、「誰もが避けて通る、ユーモラスな愛の回り道」を創造した。
回り道の途中には、「パステルカラーの巨大なマシュマロの障害物」や、「強制的に一分間の愛の抱擁をしなければならない、モフモフの幻影」といった、訓練の論理とは全く無縁の、ユーモラスな障害物が次々と出現した。
◆
訓練が始まった。フリードリヒ王子は、最短ルートを進もうとしたが、マシュマロの障害物に足を滑らせ、滑稽に転倒した。彼は、論理的な思考が一瞬で停止するのを感じた。
シャルロッテは、フリードリヒ王子に語りかけた。
「ね、お兄様。急いで、マシュマロを踏み潰すよりも、マシュマロを抱きしめるほうが、絶対可愛いよ! 愛はね、急ぐものじゃなくて、ゆっくり味わうものなの!」
フリードリヒ王子は、立ち上がり、戸惑いつつもマシュマロの障害物を抱きしめた。
その瞬間、彼の熱狂的な競争心は、「ユーモアと愛の抱擁」によって、心地よく解放された。
◆
訓練は、「最短時間でゴールする」という目的から、「いかにユーモラスに、愛の抱擁を享受するか」という、全く新しい遊びへと変貌した。騎士たちは、競争の厳格さから解放され、心から笑い、訓練を楽しんだ。
フリードリヒ王子は、シャルロッテの愛の哲学に、深く感動した。
「シャル。君は、『急いては事をし損じる』という教訓を、『急ぐよりも、愛の回り道を楽しめ』という、最高の哲学に変えてくれた! 騎士にもこうした余裕が必要なのだな!」
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、競争に勝つよりも、みんなで笑って、愛の回り道をしたほうが、絶対可愛いもん!」
その日の午後、騎士訓練場は、シャルロッテの愛の哲学によって、「愛の効率性とは、急ぐことではなく、ユーモアと愛を享受することである」という、温かい真理に満たされたのだった。




