第三十七話「テーブルの四つの足と、みんなの支え方」
その日の夕食時、王城の大食堂は賑やかだった。家族全員の会話が弾む中、シャルロッテは、自分の目の前にあるテーブルをじっと見つめていた。
大食堂のテーブルは、重厚な木材で作られ、四本の太い足で支えられている。しかし、シャルロッテが食事中にふと気づいたのは、その四つの足のうち、一つだけが他の足よりごくわずかに短いことだった。テーブルは、第二王子フリードリヒが身を乗り出して笑うたびに、わずかにガタつく。
「ねえ、フリードリヒ兄様。テーブルさんが、ちょっと怒ってるよ」
「怒ってる? どういうことだ、シャル?」
フリードリヒが首を傾げると、シャルロッテはテーブルの短い足を指さした。
「このテーブルさん、片足だけ短くて、可哀想だね。みんなを支えようと頑張ってるのに、ガタガタしちゃうから、怒ってるんだよ」
アルベルトは、「すぐに職人に直させよう」と言おうとしたが、シャルロッテはそれを制止した。
「待って! この足、何か言いたがってるわ!」
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シャルロッテは、椅子から降り、テーブルの短い足の前に膝をついた。そして、土属性魔法を応用し、短い足に意識を集中して「感じる」。
短い足からは、他の三本よりも強烈な、「私だって、みんなを支えたい! 一生懸命頑張ってるんだ!」という、熱い「頑張る気持ち」が伝わってきた。他の三本の足が「まあ、このくらいでいいだろう」と立っているのに対し、短い足だけは、他の足より強烈に地面に力を込め、懸命にテーブルを水平に保とうと頑張っていたのだ。
「わあ! この足さん、とっても頑張り屋さんだね!」
シャルロッテは、その頑張る姿に心を打たれた。
「アルベルト兄様。この足は、直さなくてもいいよ! この足は、このままが一番可愛いの!」
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シャルロッテは、短い足に、土属性の強化魔法をごく優しくかけた。それは、足の長さを伸ばす魔法ではなく、「足の持つ『支えようとする力』を肯定し、強化する魔法」だった。
すると、不思議なことが起こった。短い足は、他の足と同じ高さにならなくても、テーブルを完璧に安定させた。ガタつきは完全に消え、テーブルは、まるで大地に根を張ったかのように、微動だにしなくなった。
「すごい! ガタつかなくなったぞ!」
フリードリヒは、テーブルを揺らしてみて驚いた。
シャルロッテは、短い足にそっとキスをした。
「頑張ったね、短い足さん。あなたは、このままで最高の支え役だよ!」
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この様子を見ていた兄たちも、大きな発見を得た。
フリードリヒは、短い足に自分を重ねて感銘を受けた。
「俺も訓練で、アルベルト兄貴より劣ってるって思ってたけど、別に同じじゃなくてもいいんだな。俺にしかできない方法で、家族や国を支えればいいんだ」
アルベルトは、「完璧さ」を追求する自身の価値観が揺らぐのを感じた。
「完璧でなくとも、その存在の姿勢と、懸命さが、全体を支える力になる、か……。シャルは、テーブルという無機物を通して、私に王としての最も大切な教えをくれた」
ルードヴィヒ国王は、娘の素朴な視点に、深く頷いた。
「ハッハッハ! 我が家は、完全な者だけでなく、頑張る短い足によって支えられているのだな!」
シャルロッテは、テーブルという無機物の中に、「頑張る生命」の姿を見出し、その存在そのものを肯定した。そして、このガタつかないテーブルは、王族の団欒を完璧に支える、愛らしい存在となったのだった。