表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

37/128

第三十七話「テーブルの四つの足と、みんなの支え方」

 その日の夕食時、王城の大食堂は賑やかだった。家族全員の会話が弾む中、シャルロッテは、自分の目の前にあるテーブルをじっと見つめていた。


 大食堂のテーブルは、重厚な木材で作られ、四本の太い足で支えられている。しかし、シャルロッテが食事中にふと気づいたのは、その四つの足のうち、一つだけが他の足よりごくわずかに短いことだった。テーブルは、第二王子フリードリヒが身を乗り出して笑うたびに、わずかにガタつく。


「ねえ、フリードリヒ兄様。テーブルさんが、ちょっと怒ってるよ」


「怒ってる? どういうことだ、シャル?」


 フリードリヒが首を傾げると、シャルロッテはテーブルの短い足を指さした。


「このテーブルさん、片足だけ短くて、可哀想だね。みんなを支えようと頑張ってるのに、ガタガタしちゃうから、怒ってるんだよ」


 アルベルトは、「すぐに職人に直させよう」と言おうとしたが、シャルロッテはそれを制止した。


「待って! この足、何か言いたがってるわ!」



 シャルロッテは、椅子から降り、テーブルの短い足の前に膝をついた。そして、土属性魔法を応用し、短い足に意識を集中して「感じる」。


 短い足からは、他の三本よりも強烈な、「私だって、みんなを支えたい! 一生懸命頑張ってるんだ!」という、熱い「頑張る気持ち」が伝わってきた。他の三本の足が「まあ、このくらいでいいだろう」と立っているのに対し、短い足だけは、他の足より強烈に地面に力を込め、懸命にテーブルを水平に保とうと頑張っていたのだ。


「わあ! この足さん、とっても頑張り屋さんだね!」


 シャルロッテは、その頑張る姿に心を打たれた。


「アルベルト兄様。この足は、直さなくてもいいよ! この足は、このままが一番可愛いの!」



 シャルロッテは、短い足に、土属性の強化魔法をごく優しくかけた。それは、足の長さを伸ばす魔法ではなく、「足の持つ『支えようとする力』を肯定し、強化する魔法」だった。


 すると、不思議なことが起こった。短い足は、他の足と同じ高さにならなくても、テーブルを完璧に安定させた。ガタつきは完全に消え、テーブルは、まるで大地に根を張ったかのように、微動だにしなくなった。


「すごい! ガタつかなくなったぞ!」


 フリードリヒは、テーブルを揺らしてみて驚いた。


 シャルロッテは、短い足にそっとキスをした。


「頑張ったね、短い足さん。あなたは、このままで最高の支え役だよ!」



 この様子を見ていた兄たちも、大きな発見を得た。


 フリードリヒは、短い足に自分を重ねて感銘を受けた。


「俺も訓練で、アルベルト兄貴より劣ってるって思ってたけど、別に同じじゃなくてもいいんだな。俺にしかできない方法で、家族や国を支えればいいんだ」


 アルベルトは、「完璧さ」を追求する自身の価値観が揺らぐのを感じた。


「完璧でなくとも、その存在の姿勢と、懸命さが、全体を支える力になる、か……。シャルは、テーブルという無機物を通して、私に王としての最も大切な教えをくれた」


 ルードヴィヒ国王は、娘の素朴な視点に、深く頷いた。


「ハッハッハ! 我が家は、完全な者だけでなく、頑張る短い足によって支えられているのだな!」


 シャルロッテは、テーブルという無機物の中に、「頑張る生命」の姿を見出し、その存在そのものを肯定した。そして、このガタつかないテーブルは、王族の団欒を完璧に支える、愛らしい存在となったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ