第三百五十六話「秘密のお小遣い帳と、シャルロッテの『愛の支出論』」
その日の午後、王城のシャルロッテの居室は、深刻な財政問題に直面していた。給仕のルパート先生の講義に感化され、「お金の賢い使い方」に目覚めた若き財務官僚候補、フィリップが、シャルロッテのお小遣い帳を真剣な顔でチェックしていた。
フィリップは、シャルロッテの「支出の記録」を見て、頭を抱えていた。
「姫殿下。この支出は、あまりにも非効率的です! まず『可愛いリボン』。次に『モフモフ様への高級おやつ』。そして『エリーゼ嬢へのマカロン代』。これでは貯蓄や投資という、未来への賢明な支出が、ゼロではありませんか!」
フィリップにとって、お金は「未来の安全」を保証するための、厳格な論理的資源だった。
◆
シャルロッテは、モフモフを抱き、フィリップの冷たい分析に、目を丸くした。
「ねえ、フィリップお兄さん。お金はね、『未来の安全』のために、カチコチに固めておくものじゃないよ、今を楽しむために使うものだよ」
シャルロッテは、フィリップの持つ「お金の冷たい論理」を、「愛の熱狂的な支出」という新しい哲学で包み込むことにした。
◆
シャルロッテは、自分のリボンコレクションの中から、一番のお気に入りであるパステルピンクのリボンを一本手に取った。
「ね、フィリップお兄さん。このリボンが、私にどれだけの『可愛い!』っていう勇気をくれたか、お兄さんにはわかる?」
シャルロッテは、光属性と共感魔法を融合させた。
彼女の魔法は、リボンに、「シャルロッテがリボンをつけたことで、その日一日、どれだけの笑顔を生み出し、どれだけの幸福感を周囲に分け与えたか」という、非物質的な「愛の収益」を光の数値として映し出した。
数値は、フィリップが計算した貯蓄の利益率を遥かに超えていた。
◆
シャルロッテは、フィリップに、最後の論理を提示した。
「フィリップお兄さん。お金の賢い使い方ってね、『一番可愛くなれることに、迷わず、思いっきり使うこと』だよ。だって、私が可愛くなると、モフモフも嬉しいし、エマも嬉しいし、みんなが笑うでしょう?」
彼女は、モフモフをぎゅっと抱きしめた。
「モフモフのおやつはね、モフモフが一番元気で可愛くなるための、世界平和への投資なの!」
◆
フィリップは、シャルロッテの「愛の収益率」という、前代未聞の会計学に、頭を抱えつつも、その哲学に感動した。
「姫殿下……! 私の経済学では、愛と幸福は『外部不経済』として無視されていました。しかし、姫殿下の会計では、愛こそが、最も高利益を生む『内部収益』なのですね!」
フィリップは、シャルロッテのお小遣い帳の最後に、「幸福への支出:無限の収益」*という、新しい科目を書き加えた。
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ、そうだよ! だって、未来への不安よりも、今、一番可愛くなることに使うお金の方が、絶対可愛いもん!」
その日の午後、居室は、シャルロッテの愛の哲学によって、「最高の経済学とは、愛の熱狂的な支出によって幸福を最大化することである」という、温かい真理に満たされたのだった。




