第三百二十八話「幸福の根拠と、姫殿下の『終わりなき可愛い質問』」
その日の午後、王城のテラスは、心地よい静寂に包まれていた。シャルロッテ姫殿下は、友人のエリーゼと共に、焼きたてのクッキーとミルクティーを楽しんでいた。
エリーゼは、マナー講座で身につけた厳格な思考様式から、最近、一つの哲学的な問いに囚われていた。
「シャルロッテ様。私は今、クッキーを食べて幸せです。ですが、なぜ私はこのクッキーを食べて幸せなのでしょうか。その幸福の根拠は、一体どこにあるのでしょうか」
彼女は、幸福の連鎖を辿り、その根源的な理由を突き止めようとしていた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、エリーゼの純粋な問いに、目を輝かせた。
「わあ、エリーゼお姉様! 面白いね! 一緒に考えてみましょう! クッキーを食べて幸せなのは、なんでだろう?」
エリーゼは、熟考しながら答え始めた。
「それはクッキーが美味しいからです。では、なぜクッキーは美味しいのでしょうか。それは、生地と調味料の配合が完璧だからです」
シャルロッテは、クッキーを一口食べて微笑んだ。
「じゃあ、なんで生地と調味料の配合が完璧だと、美味しいの?」
エリーゼは、さらに思考を遡らせる。
「それは、小麦が豊かに育ったからです。では、なぜ小麦は豊かに育ったのでしょうか。それは、おそらくハンスおじいさんが、愛を込めて土を耕したからです」
シャルロッテは、さらに問いを重ねる。
「じゃあ、ハンスおじいさんは、なんで愛を込めて土を耕したの?」
エリーゼは、思考の根源へ向かう。
「それは、ハンスおじいさんが、国王陛下が国民の幸福を願っていることを知っているからです。では、国王陛下は、なぜ国民の幸福を願っているのでしょうか。それは、……」
エリーゼは、思考が「愛の起源」という、論理では辿り着けない、無限の後退に陥っていることに気づき、困惑した。彼女の思考は、無限に「なぜ?」を繰り返す、終わりなき迷宮に入り込んでしまったのだ。
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シャルロッテは、クッキーを頬張り、最後の問いを投げかけた。
「じゃあね、エリーゼお姉様。ハンスおじいさんが、たとえば、おじいさんのおばあさんから、クッキーをもらった時、なんで幸せだったの?」
エリーゼは、もう論理で答えることができなかった。彼女の頭の中は、「愛」という、根拠を必要としない感情の起源で満ちていた。
シャルロッテは、クッキーの最後のひとかけらをエリーゼの口元にそっと運んだ。
「ね、エリーゼお姉様。幸福の根拠はね、『これ以上、なぜ?って聞けないくらい、ただ美味しいから、幸せ!』って、言っちゃうことなんだよ」
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エリーゼは、そのクッキーの味と、シャルロッテ姫殿下の純粋な笑顔から、「幸福は、論理的な根拠を必要とせず、その瞬間に完結する愛の感情である」という、究極の真理を悟った。
シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、幸福の根拠が、難しい論理でできていたら、みんな、幸せになれないでしょう? 幸福はね、ただ美味しい!って言える、可愛い心でできているんだよ!」
その日の午後、テラスは、シャルロッテ姫殿下の愛の哲学によって、「幸福の根拠は、論理ではなく、愛の感情である」という、最も温かい真理に満たされたのだった。




