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第三十二話「城下町の変な匂いと、勇気の出る発酵食品」

 ある朝、城下町のパン屋「麦の香り」の周囲で、奇妙な異臭が漂い始めた。それは、腐敗しているようでもあり、しかし嗅ぐと体がじんわりと温まるような、複雑な匂いだった。


 パン屋のフランツ(エマの父)は、客足が減って困り果てていた。


「困ったな、この匂いのせいで、せっかくの焼きたてのパンの香りが台無しだ」


 城下町の住人たちも不安げだ。


「この匂いは、何かの病気の元ではないか?」


「いや、噂では、新しく来た異国の職人が作っている、怪しい食品の匂いらしい」



 シャルロッテは、モフモフを抱いて城下町を散策中、その匂いを嗅いだ。


「うーん……この匂い、知ってる!」


 彼女の頭の中で、前世の日本で嗅いだ「味噌」や「納豆」といった、独特の発酵臭の記憶が蘇った。匂いの元を突き止めると、それはフランツの店の近くに住む、最近引っ越してきた異国出身の職人、ガブリエルの工房だった。


 ガブリエルは、故郷の伝統的な発酵食品を、エルデンベルク王国でも広めようと試みていた。彼の食品は、見た目は地味だが、非常に栄養価が高く、食べると体が元気になり、勇気が出る「匂いの裏に隠された可愛らしい恩恵」を持つ食品だった。


「ガブリエルさん、それ、とってもすごい食べ物なんでしょう?」


 シャルロッテは、ガブリエルに尋ねた。


「おや、お嬢様。匂いは悪いですが、食べると元気が湧いてくる、故郷の知恵の結晶です。しかし、この匂いのせいで、誰も食べてくれません」と、ガブリエルは寂しそうに笑った。



 シャルロッテは、ガブリエルの食品の持つ「力」は素晴らしいが、この「可愛くない匂い」が問題だと判断した。


「よし! 匂いを可愛くすればいいんだ!」


 シャルロッテは、ガブリエルの工房で、水属性魔法の実験を始めた。


 彼女は、水属性魔法を応用し、発酵食品から立ち昇る匂いの分子を、「城下町の花畑で集めた花の香りの分子」で優しくコーティングする「フレグランス・コーティング魔法」を考案した。


 匂いそのものは残るが、悪臭ではなく、「花の香りがする、不思議で癖になる匂い」へと変化した。


「わあ! 変な匂いじゃなくて、可愛い匂いになったね!」



 シャルロッテは、ガブリエルと、パン屋のフランツを協力させた。


 シャルロッテは、その発酵食品を、大好きなピンク色のクリームと、甘いフルーツで包み込み、「勇気の出るもふもふパン」として売り出すことを提案した。


 フランツは、半信半疑ながらも、シャルロッテの熱意に押され、そのパンを試作した。パンは、匂いが変わり、見た目も可愛らしくなったことで、一気に城下町の好奇心を刺激した。


 シャルロッテ自身が、モフモフと一緒に「勇気の出るもふもふパン」を宣伝した。


「みんな! このパンを食べるとね、勇気が湧いてくるんだよ! そして、ふわふわでとっても美味しいよ!」


 城下町の人々は、恐る恐るパンを食べるが、その独特な美味しさと、食べた後の体の温かさ、そして実際に心が満たされる感覚に感激した。


「本当に、体が温まる!」


「勇気が出るような気がするぞ!」


 発酵食品は、「勇気の魔法食」として城下町中に受け入れられ、パン屋の客足はV字回復。フランツはガブリエルと提携し、新しい食文化の担い手となった。



 シャルロッテは、大成功に満面の笑顔だ。


「ね、ガブリエルさん。変な匂いの裏には、可愛い美味しさが隠れていたんだね!」


 ガブリエルは、感極まって涙ぐんだ。


「殿下のおかげで、故郷の知恵が、この地で受け入れられました。感謝申し上げます」


 シャルロッテは、「変な匂い」の裏に隠された「可愛い美味しさ」を発見し、城下町の食文化を豊かにしたことに満足した。そして、この新しいパンは、彼女のお気に入りのおやつリストに追加されたのだった。

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