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【TS幼女転生王族スローライフ】姫殿下(三女)は今日も幸せ♪ ~ふわふわドレスと優しい家族に囲まれて★~  作者: 霧崎薫


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第三百二十話「秘薬の天秤と、姫殿下が解く『毒と薬の愛の分量』」

 その日の午後、王城の裏手の、古い錬金術棟は、奇妙な薬草の香りと、金属を煮詰める、クツクツという微かな不協和音に満ちていた。王族からは忘れ去られたその場所で、錬金術師ノヴァは、隠遁生活を送りながら、物質の究極の真理を探求していた。


 ノヴァは、精巧な天秤の前に座り、猛毒として知られる夜光草の粉末と、万能薬の原料である太陽花の蜜を、ごく微細な単位で調合していた。彼は、物質の持つ「毒性」と「薬効」は、本質的に同じであり、その「分量」だけが、生と死を分けると考えていた。


「この世に存在する全てのものは、毒であり、薬である。だが、その境界線は、理性の及ばない、曖昧な領域にある……」


 ノヴァは、その境界線の曖昧さが、人間の運命を支配しているという、冷たい哲学的結論に囚われていた。彼は、長年の研究で、理論的には完璧なはずの万能薬が、なぜか常に微毒性を帯びるという不可解な現象によって、行き詰まっていた。



 シャルロッテは、モフモフを抱き、その陰鬱な錬金術棟に、ちょっとしたいたずら心で入った。彼女の目には、ノヴァが持つ「物質の本質的な二元性」が、「愛と憎悪」という、人間の感情の究極の対立を映しているのがすでに見えていた。


「ねえ、ノヴァおじいさん。この天秤さん、なんだか、どっちが悪い子か、悩んでいるみたいだよ」


 ノヴァは、姫殿下の純粋な問いに、冷淡に答えた。


「おそれながら姫殿下。この天秤は、善悪を測るものではありません。ただ、量を測るもの。そして、物質の本質は、常に中立であり、人間の意志が、それを毒にも薬にもするのです。愛などという曖昧な感情が、物質の普遍的な性質を左右することなどあり得ません!」


 シャルロッテは、ノヴァの持つ「物質の冷たい中立性」を、「愛の温かい意志」という、最も高貴な原理で打ち破ることにしてみた。これもちょっとしたいたずら心だった。



 シャルロッテ姫殿下は、夜光草の粉末と、太陽花の蜜が乗った天秤の皿に、そっと手をかざした。そして、光属性と変化魔法を融合させた。


 彼女の魔法は、天秤の針を物理的に動かさない。その代わりに、彼女は、物質の「毒性」と「薬効」という二つの皿に、「愛の分量」という、新しい非物質的な重みを与えた。


 シャルロッテ姫殿下は、「夜光草」の皿に、「誰かを憎む心」という感情的な重みを注入した。そして、「太陽花」の蜜の皿に、「誰かを許す心」という感情的な重みを注入した。


 その瞬間、天秤は、ユラユラと揺らぎ、最終的に、「太陽花」の蜜の皿が、ごく微細に、しかし確実に傾いた。



 ノヴァは、その結果に驚愕した。物理的な量は完全に均衡していたはずだ。ノヴァは、過去の記憶を猛烈に遡り始めた。


(そうだ……あの時、私は、実験の失敗で自暴自棄になり、夜光草の粉末を捨ててしまおうとした。その時、薬が微毒性を持った……!)


(そして、あの完璧な万能薬ができた時……それは、私が、病に苦しむ孤児の娘を救いたいと、純粋な献身の心で調合した時だった……!)


 ノヴァの脳裏で、長年の研究データと、彼の感情の記録が、一気に結びついた。


 理論的には完璧でも、彼の中に微かな「憎しみ」や「絶望」が存在した時、そのネガティブな感情が夜光草の毒性を増幅させていたのだ。そして、「愛と献身」が存在した時、そのポジティブな感情が太陽花の薬効を増幅させていたのだ。


 ノヴァは、天秤の前に跪いた。


「おお、姫殿下……! 私は、物質は中立だと信じていた! だが、物質は、調合する者の心という名の触媒によって、その本質を左右されるのですね! 私の長年の研究の矛盾は、理性の問題ではなく、愛の分量だったのですね……!」


 ノヴァは、物質の真理が、物理的な量ではなく、「愛の分量」という、最も非物質的で、高貴な原理によって決定されることを悟った。彼は、自分の人生の探求が、「物質の冷たい中立性」ではなく、「愛の温かい普遍性」を証明するためにあったことを知った。


 シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。


「えへへ。だって、愛という名の薬の分量が、一番多い調合のほうが、みんな、可愛く幸せになるんだもん!」


 その日の午後、錬金術棟は、シャルロッテ姫殿下の愛の哲学によって、「毒と薬を分けるのは、愛の分量である」という、最も温かい真理に満たされたのだった。

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