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第三十話「王城地下室の闇の染みと、シャルの可愛い微生物」

 その日の王城では、地下のワイン貯蔵室へ続く古い通路の壁に、奇妙な現象が起こっていた。毎晩、湿った壁に漆黒の「闇の染み」が現れ、朝には形が変わっているというのだ。


 執事のオスカーは、顔色を変えて報告した。


「陛下、恐れながら、これは闇属性の魔物が住み着いた証拠かと。王城の威信に関わります」


 国王ルードヴィヒは、マリアンネに緊急の調査を命じた。


 マリアンネは、魔法研究室の機材を運び込み、分析を開始した。しかし、魔物の痕跡も、悪意のある呪いの痕跡も、一切見つからない。


「おかしいわ。ただの湿気による染みだというのに、なぜ毎晩、形を変えるの?」



 シャルロッテは、兄姉たちの深刻な様子を見て、モフモフを抱いて地下室へと向かった。


 闇の染みは、壁の広範囲に広がっており、確かに不気味な雰囲気を放っている。オスカーが警戒するのも無理はない。


 シャルロッテは、染みに触れた。

 冷たく、湿った感触。

 そして、微かに土のような、しかし不快ではない匂いがした。


「ねえ、お姉様。これ、()()()()()


 シャルロッテは、前世の生物学の知識から、それが湿気によって繁殖したカビや菌糸体の集合であると看破した。壁に付着した有機物を栄養源とし、胞子を飛ばしたり、増殖したりする極めてゆっくりとした生物活動の結果、毎晩「形が変わる」ように見えていたのだと推理した。


「でも、カビは『闇の染み』じゃないよ。みんな、生きてるお花畑だよ!」



 マリアンネは、「カビ」という科学的な説明には納得したが、「お花畑」という言葉には首を傾げた。


「シャル、カビがなぜお花畑なの?」


 シャルロッテは、闇属性魔法の「感知」と「隠蔽」の力を応用し、オリジナルの魔法を編み出した。


「お姉様、よーく見ててね。微生物観察魔法、発動!」


 シャルロッテが染みに虹色の魔力を込めた途端、染みは一瞬で、肉眼では見えない世界を可視化した。マリアンネの高性能な拡大レンズを通して、二人が見たのは、驚くべき光景だった。


 カビの菌糸体は、規則正しく、まるで繊細なレースのような微細構造を作り出しており、特定の波長で光を当てると、七色に輝く結晶のようだ。カビの胞子が、小さな宝石のように舞い、ゆっくりと壁に定着していく。


「まあ……なんて、美しいの!」


 マリアンネは、思わず声を上げた。闇の染みなどではなく、そこには、まさに壁に咲く、光と色彩に満ちた微生物のお花畑が広がっていたのだ。



 シャルロッテは、そのカビを「闇の染み」ではなく「お城の壁に咲く、可愛い微生物のお花畑」と再定義した。


「ね、お姉様。悪いものなんて、どこにもないでしょう? ただ、みんなが一生懸命生きているだけだよ」


 マリアンネは、興奮して研究ノートに書き込み始めた。


「すごいわ、シャル! これは、魔法による生物学の飛躍的な進歩よ! 闇属性は、闇の魔物対策だけでなく、こんなにも可愛い真実を明らかにする力を持っていたなんて!」


 オスカーも、その映像を見せられ、感服した。


「闇の魔物ではございませんでしたか。殿下、この壁の可愛らしさに気づかず、警戒していた私が恥ずかしい……」


 ルードヴィヒ国王は、娘の報告を聞き、心から感服した。


「闇属性の染みから、こんなにも可愛い真実を見つけ出すとは、我が娘は天才だ。城の威信は、闇に打ち勝つことではなく、闇の中に潜む、小さな美しさを発見することで保たれるのだな」


 シャルロッテは、この一件で、王城の地下室を「シャルの微生物観察室」とすることを許可された。カビは、誰も傷つけない「可愛い微生物のお花畑」として認定され、シャルロッテの可愛いコレクションの一部に加えられたのだった。

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