第二百九十三話「執事の金庫と、楽師の『歌う砂時計』」
その日の午後、王城の執事部屋では、オスカー執事が、新しく雇われた楽団員たちの「享楽的な生活態度」に頭を悩ませていた。楽団員は、演奏の腕は超一流だが、練習を怠り、優雅な時間全てを、酒と詩と、昼寝に費やしていた。
「国王様。楽師は、規律と勤勉を忘れています。彼らは、怠惰という名の敵に、王国の規律を乱されています」と、オスカー執事は、怒りを込めてルードヴィヒ国王に報告した。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、その論争を聞いていた。彼女の目には、オスカー執事の「勤勉さ」と、楽団員の「享楽」が、どちらも「人生を豊かにする力」であり、対立するべきではないと映っていた。
「ねえ、オスカー。あの楽師さん、『悲しい音』は出さないよ。『楽しい音』しか出さないよ」
シャルロッテ姫殿下は、オスカー執事の「規律」という論理が、「人生の喜び」という、もっと大切なものを排除しようとしていることを察した。
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シャルロッテは、オスカー執事と楽団員を、大食堂に招いた。
シャルロッテは、まず、「無為の時間を過ごす」ことの美しさを語った。
「楽師さんはね、『何もしない』時間で、世界中の一番可愛い音を集めているんだよ。それは、誰にもできない、大切な仕事だよ」
そして、シャルロッテ姫殿下は、オスカー執事に、「勤勉な規律」の持つ、新しい価値を教えた。
「オスカーの勤勉はね、『みんなが、安心して、ぐっすり眠れる、ふわふわのベッド』を作ってるんだよ!」
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シャルロッテ姫殿下は、オスカーと楽団員たちの間に、光属性と風属性の魔法を融合させた。
彼女の魔法は、楽団員の奏でる即興のメロディに、オスカー執事の正確な「規律のリズム」を、風の音として加えた。そして、オスカー執事の頭上には、楽団員の「創造の自由」を象徴する、光の音符の砂時計を浮かび上がらせた。
その砂時計は、時間が「仕事」と「遊び」のどちらに流れても、美しく輝き続けた。
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オスカー執事は、自分の厳格な規律が、「創造の自由」という、最も尊い芸術を支えていることを知り、深い安堵感を覚えた。
「姫殿下。規律は、自由を縛る鎖ではなく、創造を支える舞台だったのですね」
楽団員たちは、自分の享楽的な時間が、「勤勉」という名の支えの上で、初めて許されていることを知り、王城の規律を尊重し始めた。
ルードヴィヒ国王は、娘の哲学に、深く感動した。
「シャルは、『勤勉と享楽』という、王国の二つの価値観を、『愛という名の調和』で結びつけたのだな」
シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、みんなが、違う音を出すから、世界一可愛いオーケストラになるんでしょう?」
姫殿下の純粋な愛の哲学は、「対立する価値観」を、「共存と感謝」という、温かい真理で包み込んだのだった。




