第二百八十三話「騎士団の『鉄と誇り』と、姉妹のパステル色革命」
その日の午後、王城の騎士訓練場は、重厚な金属の匂いと、厳しい規律の空気に満ちていた。第二王子フリードリヒは、騎士団員たちに、「鎧の完璧な磨き上げ」と「武器の無骨な機能美」こそが騎士の誇りだと指導していた。
「騎士の美しさは、華美な装飾ではない! 機能性と無骨さ、それこそが真の誇りだ!」と、フリードリヒは力説した。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、イザベラ王女と共にその訓練場を訪れた。二人の目には、その「無骨な機能美」が、「色彩が足りない、可愛くない単調さ」として映っていた。
「ねえ、フリードリヒ兄様。その鎧、黒都銀しかなくて、全然可愛くないよ。シャルはもっとお花が欲しい!」と、彼女は訴えた。
イザベラ王女は、妹の感性に賛同した。
「そうよ、フリードリヒ。誇りは、内に秘めるだけでなく、外にも優雅に表現されるべきよ。あの鎧は、美の可能性を閉ざしているわ」
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フリードリヒ王子は、妹たちの純粋な要望に、戸惑った。しかし、妹たちの「可愛い」への追求が、単なるわがままではなく、「生命の輝き」を求める本能的な行動だと知っていた。なので、彼はひとまず静観することにした。
シャルロッテ姫殿下とイザベラ王女は、騎士団の鎧と武器に、「美と可愛さ」という名の新しい試練を与えることを決意した。
イザベラ王女は、騎士団員に、「自分の鎧に、最も誇れる色彩とモチーフを、ワンポイントで施すこと」という課題を出した。
「あなたたちの強さが、どんな色なのか、私たちに見せてちょうだい!」
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騎士団員たちは、最初は戸惑ったが、王女たちの熱意に押され、訓練の合間に、自らの鎧や盾を飾り始めた。
シャルロッテは鎧の表面に、光属性魔法で、パステルピンクやミントグリーンの、ごく微細な花びらの模様を、一時的に定着させた。それは、「愛と優しさ」を象徴する、最も可愛い防御だった。
イザベラ王女は盾の縁に、銀のレースのような装飾を施すよう指導した。彼女は、「美しさが、敵の目を眩ませるのよ」と、彼女独自のユーモラスな論理を説いた。
訓練場は、一瞬にして、冷たい鉄の空間から、パステルカラーの、華やかな芸術的な空間へと変貌した。
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その日の訓練中、騎士団員の士気は、異常に高かった。彼らは、「誰にも負けない、自分だけの美しい鎧」という誇りを得て、剣の動きに、以前にはない優雅さと情熱を帯びさせた。
アルベルト王子が訓練場を訪れ、その光景を見た。彼は、妹たちの行動が、「誇り」という精神的な力を、「視覚的な美しさ」で増幅させていることに気づいた。
「シャルとイザベラは、美学という名の、最強の精神強化魔法を施したのだな!」
シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、強いだけよりも、強いのに可愛い方が、世界一かっこいいもの!」
姫殿下の純粋な哲学は、騎士団の「無骨な誇り」に、「美と愛の色彩」という、新しい生命の輝きをもたらしたのだった。




