第二百七十七話「城下町の路地と、姫殿下が踏む『未来の足跡』」
その日の午後、シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、城下町の急な角度で曲がる、薄暗い路地の前に立っていた。その路地は、一歩足を踏み入れると、先が全く見えず、まるで人生の「分岐点」そのもののように、静かな不安を誘っていた。
エマは、「姫殿下、この先は道が悪いので、お戻りください」と、安全な道への誘導を促した。
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シャルロッテ姫殿下は、しかし、その「未知への不安」に強く惹きつけられた。彼女の純粋な好奇心は、「見えない未来の美しさ」を、どうにかして今、この瞬間に感じ取りたかった。
「ううん、大丈夫だよ、エマ。曲がり角にはね、素敵なプレゼントが隠されてるんだもん!」
シャルロッテは、路地の曲がり角に、そっと足を踏み入れた。
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シャルロッテ姫殿下は、光属性と時間魔法を融合させた。
彼女の魔法は、未来の出来事を予言するものではない。彼女の魔法は、「曲がり角の向こう側で、誰かが将来経験する、最も純粋な幸福の瞬間」の魔力を、「微細な足跡*として、一瞬だけ、現在の地面に投影させた。
シャルロッテの目には、路地の曲がり角の先から、アルベルト王子が、笑顔で、穏やかに歩いてくる光の足跡が見えた。
その足跡は、「未来は、決して恐ろしいものではなく、温かい幸福に満ちている」という、希望の確証をシャルロッテ姫殿下に与えた。
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シャルロッテは、その光の足跡を、迷うことなく、追いかけた。路地の向こう側で待っていたのは、アルベルト王子ではなかった。そこにいたのは、新しいパンの配達に来た、見知らぬ少年だった。
しかし、その少年は、シャルロッテに気づくと、満面の、温かい笑顔を見せ、焼きたてのパンを献上した。そのパンの温かさと、少年の笑顔は、シャルロッテ姫殿下の見た未来の足跡と、寸分違わぬ幸福感を伴っていた。
「わあ! 未来の幸せが、今、パンになってくれたよ!」
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エマは、シャルロッテの奇妙な行動が、結果的に「幸福」という実益に繋がったことに感心した。
シャルロッテ姫殿下は、パンをちぎり、モフモフと共に口にした。
「ね、エマ。未来ってね、恐いんじゃなくて、今、一歩踏み出すことを、優しく待ってくれているんだよ!」
シャルロッテ姫殿下の純粋な感性は、「人生の分岐点」という普遍的な不安を、「愛と希望という名の、温かい足跡」で満たしたのだった。




