第二百七十六話「古城の静寂と、王女の『花の大爆発』」
その日の午後、王城の巨大な石造りの旧式な宴会場は、冷たい静寂に包まれていた。空間は広く、天井は高いが、何の装飾もなく*「無味乾燥な権威」だけを象徴していた。
アルベルト王子は、この空間の冷たさが、賓客に与える印象を憂慮し、どうにか「生命の温もり」を加えたいと悩んでいた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、その宴会場に入った。彼女の目には、その空間が、**「華やかさが足りない、可愛くない巨大な余白」**として映っていた。
「ねえ、兄様。この部屋、悲鳴をあげそうだよ。もっと、ドーンって、お花があったらいいと思うの!」
シャルロッテは、「花は、ただ飾るものではない。空間全体を、生命のエネルギーで満たすもの」という、独自の美学を持っていた。
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シャルロッテは、花材の選定から始めた。彼女は、庭園の最も色鮮やかな、強烈な色彩を持つ花々を、大量に運び込ませた。赤、紫、黄色、緑—色彩の法則を無視した、大胆な原色の組み合わせだ。
そして、彼女は、空間全体をキャンバスとした。
シャルロッテ姫殿下は、土属性と風属性を融合させた。
彼女の魔法は、花器を使わない。花々は、土から抜かれたにもかかわらず、空間の上下、左右、斜めへと、風の力によって、自由奔放に、しかし調和を保って配置され、固定されていった。
それは、花と、花でないものの区別を曖昧にし、空間全体が、巨大な、生きた、色彩のモニュメントへと変貌する、創造の爆発だった。
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天井からは、蔓性の植物が、シャンデリアのように垂れ下がり、壁面には、生きた、強烈な原色の花々が、水の流れのような、動的なラインを描き出した。床面には、苔と花びらが、一つの巨大な、抽象画を描いていた。
その空間は、静寂と冷たさを失い、生命の躍動と、強烈な幸福感という、熱いエネルギーで満たされた。
アルベルト王子は、その光景に、言葉を失った。
「シャル……これは、デコレーションではない。これは、空間の支配だ!」
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賓客が宴会場へ案内されたとき、彼らは、「王族の権威」ではなく、「生命の無条件の肯定」という、強烈な芸術的なメッセージを受け取った。
誰もが、その美学の前に、頭を垂れ、その空間にいるだけで、生きる活力が湧いてくるのを感じた。
シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、お花はね、ちっちゃくまとまっているよりも、ドーン!って、爆発した方が、絶対可愛いもん!」
シャルロッテの純粋な創造性は、「装飾は、空間への生命の注入である」という、最も熱く、強烈な美学を、王城にもたらしたのだった。
 




