第二百六十六話「都会の宝石と、故郷の『染まらないリボン』」
その日の午後、城下町の外れにある小さな家で、一人の若い娘ミーナが、豪華な贈り物の箱を前に、静かに涙を流していた。箱の中には、王都で流行のきらびやかなドレスや、高価な魔石の指輪が入っていた。
それは、王城で立身出世を果たし、今は忙しく働く彼女の恋人、レオからの贈り物だった。レオは、都会での成功を彼女に伝えたくて、次々と華やかな品を送ってきていたが、手紙の言葉は次第に短く、余所余所しくなっていた。
「レオは、もう私の知っている彼じゃないわ。都会の喧騒に染まってしまったのね……」
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シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、ミーナの家を訪れた。姫殿下は、豪華な贈り物から発せられる「成功の誇示」と、ミーナの心にある「変わらないものへの渇望」のすれ違いを感知していた。
「ねえ、ミーナお姉様。この宝石、とっても冷たいね」
ミーナは涙を拭い、頷いた。
「はい、姫殿下。彼は、私が喜ぶと思ってくれているのです。でも、私はこんな豪華なものは欲しくない。私は、ただ……昔のままの、彼の優しい笑顔が欲しいだけなのです」
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シャルロッテ姫殿下は、二人の心がこれ以上離れてしまわないよう、「最後の贈り物」の選び方を教えることにした。
「ねえ、ミーナお姉様。レオお兄さんに、『一番欲しいもの』をおねだりしてみようよ。ダイヤでも、ドレスでもない、本当の宝物を」
シャルロッテ姫殿下は、光属性魔法を応用し、ミーナの「純朴な愛情」を、一つの形に変えた。
それは、何の変哲もない、「何色にも染まっていない、真っ白な麻のリボン」だった。
「これをね、レオお兄さんに、『これが一番欲しいの』って、お手紙を書くの。『都会の色に染まらない、あなた自身の心で、帰ってきて』って」
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数日後、王城の執務室で、レオはミーナからの手紙と、「真っ白な麻のリボン」を受け取った。
彼は、自分が贈った豪華な品々が、彼女の心を置き去りにしていたことに、初めて気づいた。彼が手に入れた「都会の成功」は、彼女が求めていた「変わらない愛」の前では、色褪せて見えていたのだ。
レオは、次の休暇に、豪華な衣装ではなく、昔着ていた素朴な服で、ミーナの許へ帰った。
再会した二人は、言葉少なに抱きしめ合った。
シャルロッテ姫殿下は、その様子を遠くから見て、にっこり微笑んだ。
「ね、モフモフ。一番高価なプレゼントはね、『変わらない心』なんだよね!」
「ミィ!」
姫殿下の純粋な知恵は、都会と故郷のすれ違いを、悲しい別れではなく、温かい再会へと導いたのだった。




