第二百六十四話「王の秘密の書庫と、銀髪に響く『無限の静寂』」
その日の深夜、王城の地下深くの「秘匿された書庫」は、冷たく、乾燥した空気に満ちていた。ルードヴィヒ国王は、一人、燭台の光の下で、王家のみに伝わる、禁断の知識が記された古文書を読んでいた。
古文書には、「人間が統治する以前の、この世界の真の支配者たちの姿」が描かれており、その知識は、読む者の理性を微かに侵食し、「王族という存在の、無意味さ」という、宇宙的な孤独を突きつけていた。
◆
シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、その書庫を訪れた。彼女は、父の周りの空気から、「知性が理解できる限界を超えた、冷たい絶望」の魔力波動を感じ取っていた。
「ねえ、パパ。この部屋、悲しい海の底の匂いがする」
ルードヴィヒ国王は、娘の出現に、一瞬、恐怖に顔を歪ませた。彼は、娘の純粋な心が、この禁断の知識の毒に触れることを恐れたのだ。
「シャルロッテ。よく聞きなさな。ここは、子供が来ていい場所ではない。ここは、王として、一人で耐えねばならぬ、真実の重みがある場所なのだ」
◆
シャルロッテ姫殿下は、父の言葉を否定しなかった。しかし、彼女は、「知性の絶望」を、「愛の限界」で包み込むことを決意した。
彼女は、父が読んでいた古文書の、最も恐ろしい記述のページに、そっと触れた。
そして、光属性と共感魔法を融合させた。
彼女の魔法は、古文書の冷たい真実を消すのではなく、「娘の、無条件の愛」という、人間の感情の純粋な限界を、父の知性に直接送り込んだ。
◆
ルードヴィヒ国王は、古文書に描かれた「異形の神々」の知識と、娘から伝わる「純粋な愛」という、二つの相反する真実に、同時に直面した。
宇宙の支配者たちの前では、王の権威は、一瞬の砂粒にすぎない。
しかし、この娘の「私を愛する」という意志は、その無限の宇宙の真実よりも、遥かに強固で、温かい、私の存在の核である。
彼は、知性の絶望に打ちのめされることなく、「愛という、非論理的な真実」によって、理性を守り抜いた。
◆
ルードヴィヒ国王は、古文書を閉じ、娘を抱きしめた。
「シャルロッテ。王国の秘密は、武器や軍事力ではない。君の愛こそが、無限の宇宙の真実に対抗できる、人間の最も尊い力だ。私はいつもそう思って生きている」
彼は、娘の無垢な愛によって、宇宙的な孤独から解放された。
シャルロッテ姫殿下は、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、暗くて冷たい真実よりも、パパの温かい笑顔のほうが、ずっと可愛いもん!」
シャルロッテ姫殿下の純粋な愛は、「絶望的な真実」の恐怖を、「愛と献身という、人間の尊厳、そして娘と言う光」で打ち消したのだった。




