第二百六十三話「大理石の舞踏室と、王女の『裸足の調和』」
その日の午後、王城の最も格式高い、大理石の舞踏室は、冷たい静寂に包まれていた。そこでは、王立舞踏学校の教師たちが、厳格なポーズと、完璧な角度の追求に、神経をすり減らしていた。
彼らの踊りは、技術的には完璧だが、生命の喜びが感じられず、まるで精巧なオートマタのようだった。
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シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、その舞踏室に入った。彼女の目には、教師たちの「規律」という名の鎖が、彼らの「真の躍動」を縛っているのが見えた。
「ねえ、モフモフ。みんな、可哀想だよ。ほんとはお空の雲みたいに、自由に踊りたいのに」
シャルロッテ姫殿下は、教師たちが追求する「完璧なポーズ」を否定しなかった。しかし、彼女は、「形式の追求」こそが、「感情の解放」を阻害していると考えたのだ。
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シャルロッテ姫殿下は、舞踏室の真ん中に立った。そして、自分の履いていた優雅な宮廷靴を脱ぎ捨て、裸足になった。
彼女は、風属性魔法と光属性魔法を融合させた。
彼女の魔法は、舞踏室の空気の振動を操作し、「古典的な音楽」を、「生命の衝動と、自然の喜び」を表現する、奔放なリズムへと変換させた。そして、大理石の床に、光の粒子を撒き、床を、「踏むことを恐れない、温かい大地の表面」へと変貌させた。
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シャルロッテ姫殿下は、その場で、踊り始めた。彼女の動きは、規則や角度に従わない。それは、風の流れ、光の揺らぎ、そして純粋な幸福感といった、自然の法則に、直感的に導かれた、生命の躍動そのものだった。
彼女の裸足の動きは、地面からの温かい生命の魔力を吸収し、その魔力を、虹色の光のエネルギーとして、舞踏室全体に放出した。
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教師たちは、その光景に、驚愕した。彼らは、王女の踊りの中に、「技術の正確さ」よりも遥かに尊い、「魂の真実」を見た。
彼らは、我慢できなくなり、靴を脱ぎ捨て、裸足で踊り始めた。彼らは、「完璧なポーズ」を捨て、「感情の解放」という、真の芸術を手に入れた。
アルベルト王子は、妹の行動に感動した。
「シャルロッテは、形式の奴隷になっていた我々を、真の自由へと解放したんだ……!」
シャルロッテ姫殿下は、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、靴を脱ぐとね、足の裏から、命の温かさが、いっぱい入ってくるんだよ!」
姫殿下の純粋な哲学は、「厳格な形式の追求」を打ち破り、「自由な感情の表現こそが、最高の美学である」という、普遍的な真理を、王城にもたらしたのだった。




