タイトル未定2025/10/23 14:55
第二百五十七話「氷の書庫と、マリアンネの『魔力の凍結記憶』」
その日の午後、マリアンネ王女は、王城の地下深くに存在する、「魔導技術の失敗作」を保管する極低温の地下書庫にいた。書庫の空気は凍てつき、すべての魔導具の機能が停止する、異様な空間だった。
マリアンネ王女の探求心は、その書庫の棚の一つに、「凍りついたまま、魔力を放出し続けている古い標本」を見つけた。その標本は、過去の魔導研究者が、実験の失敗により、「意識が途絶える直前の、最後の思考」が、魔力として凍結・保存されたものだった。
「信じられない。この標本には、時間の概念がないわ。過去の絶望が、永遠に、この空間で繰り返されている……」
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シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、その極低温の書庫へ入ってきた。彼女の光属性の魔力が、書庫の冷気を破り、温かい霧を立ち上がらせる。
「ねえ、お姉様。この標本、ずーっと、同じところで、立ち止まってるね」
マリアンネ王女は、妹に、その「凍結された記憶」の恐ろしさを説明した。
「この標本は、『失敗した』という、絶望の一瞬に囚われているのよ。その記憶が、時間という鎖を断ち切り、永遠にその絶望を再生している」
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シャルロッテ姫殿下は、その「時間の凍結」を解くことを決意した。
「ううん。この標本はね、『失敗』じゃなくて、『誰かに、私を助けてほしい』って、思ってるんだよ」
シャルロッテ姫殿下は、標本に、光属性と共感魔法を融合させた。
彼女の魔法は、凍りついた標本の記憶に、「絶望の瞬間から、わずか一秒後の、未来の幸福な情景」を、優しく、しかし鮮明に挿入した。
「失敗しても、温かい家族が待っている」という、純粋な愛の記憶だ。
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その瞬間、標本は、凍結されていた絶望の鎖から解放された。標本の持つ魔力波動は、絶望的な反復から、「安堵」と「感謝」という、温かい感情へと劇的に変化した。
マリアンネ王女は、解析装置の表示を見て、涙ぐんだ。
「シャルロッテ。あなたは、過去の絶望を消したのではない。未来の希望を、過去の記憶の終点に挿入することで、永遠の愛の真実を創り出したわ!」
シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「ね、お姉様。過去はね、変えられなくても、『愛の光』で、可愛く塗りつぶせるんだよ!」
王城の極低温の書庫は、シャルロッテ姫殿下の純粋な愛の力によって、「時間の絶望からの解放」という、最も温かい奇跡の舞台となったのだった。




