第二十五話「シャルの『可愛いオーブ』と、城下町の虹色プレゼント」
ある晴れた日の朝、シャルロッテは薔薇の塔の窓から城下町を眺めながら、小さな願い事をした。
「ねえ、エマ。城下町にある可愛いもの全部集めたいな」
「まあ、シャル様。それは大変なことになりますわよ。シャル様のコレクションの棚が溢れてしまいます」
「違うの。モノじゃなくて、可愛いっていう気持ちを集めたいの。パンの焼けるいい匂いとか、マルタおばさんの優しい笑顔とか、全部集めて、そrをまたみんなにプレゼントしたい!」
シャルロッテの頭の中で、「可愛い」という感情を魔法のエネルギーに変換し、それを人々に還元するアイデアが閃いたのだった。
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その日の午後、シャルロッテは城下町へと向かった。モフモフを連れ、エマとオスカーが後に続く。
シャルロッテは、人目につかない路地裏で、こっそりと魔法を発動させた。
得意な風属性と、虹色の光属性を応用し、自身の魔力で小さなシャボン玉のような「可愛いオーブ」を生成した。
「よし、オーブさん、行ってらっしゃい! 城下町の『可愛い』を、いっぱいいっぱい集めてきてね!」
虹色に輝くオーブは、音もなく、城下町の上空を漂い始めた。
オーブはまず、パン屋「麦の香り」の上でゆっくりと回転した。そこで、焼き立てのパンの香ばしい匂いと、エマの弟カールがパンを捏ねる楽しそうな気持ちを、魔力として吸い取り始めた。
次に、果物屋のマルタおばさんの店へ。マルタおばさんが一番美味しいリンゴを厳選する優しさと、果物の鮮やかな色彩を吸い取り、オーブの色は一層濃くなった。
雑貨屋のクラウスの店では、キラキラと輝くガラス細工や、新しい可愛いぬいぐるみの「可愛さ」を集めた。
シャルロッテは、オーブが街の「可愛い」を感知して満たされていくのを、遠くから優しく見守った。
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城下町の人々は、上空を漂う虹色のオーブを見て、「天使姫の祝福だ」と喜び、普段以上に店や家を可愛く飾ろうと工夫した。
果物屋のマルタおばさんは、一番大きなカゴに一番美味しい果物だけを飾り、オーブに「どうぞ食べていって」と声をかけた。雑貨屋のクラウスは、オーブがより輝くように、店頭の商品を何度も磨いた。
この現象は、シャルロッテが「可愛い」という感情を物理的な魔力に変換し、城下町に幸福と美意識の向上をもたらす、優しい魔法だった。
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日没が近づき、オーブは王城へと戻ってきた。城のテラスで待っていたシャルロッテは、虹色に満たされ、ずっしりと重くなったオーブを両手で受け止めた。
「すごい! みんなの可愛いがいっぱいだ!」
シャルロッテは、城下町の方角に向き直り、感謝の気持ちを込めて、そのオーブを空に放った。
パチン!
オーブは、大きな音もなく弾け、城下町全体に虹色の花びらと、優しい光のシャワーとなって降り注いだ。この光を浴びた人々は、一日の疲れが取れ、心が温まり、自然と笑顔になった。
「わあ、なんて綺麗な光だ!」
「心が温まる……まるで天使のようだ!」
人々は、この現象を「虹色のプレゼント」と呼び、翌日もその温かい余韻に浸っていた。
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王城に戻ったシャルロッテは、テラスでその光景を見ていたエマに抱きついた。
「ね、エマ。これで、みんなも幸せになったね!」
エマは、感涙で目を潤ませた。
「はい、シャル様。シャル様の『可愛い』という純粋な感覚が、こんなにも多くの人を癒やし、幸せにできるなんて……。本当に、世界で一番優しいプレゼントです」
シャルロッテは、自分の「可愛い」という感覚が、単なる趣味ではなく、多くの人の心を動かし、癒やしを与え、幸せにできる最強の魔法であることを実感した。城と民の絆は、この虹色のプレゼントを通して、さらに深まったのだった。