第二百三十話「庭園の永遠の輪と、姫殿下の『魔力の反復練習』」
その日の午後、王城の誰も通らない、円形に整えられた古い生垣の迷路の中央は、奇妙な現象に見舞われていた。迷路の中心には、始まりも終わりもない、完全な円環を描く土の道が作られていた。
マリアンネ王女の解析によると、その円環の道には、「魔力が、時間と共に減衰せず、無限に自己を再生産する」という、驚くべき魔術的な特性が宿っていた。
「この円環は、生命の有限性という常識を否定しているわ! 魔力は、常に完全な循環を続けているのよ!」
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シャルロッテは、モフモフを抱き、その円環の土の道に立った。彼女の目には、その道が、「終わらない、静かで優しい反復」を続けていることが見えていた。
「ねえ、モフモフ。この道はね、誰にも邪魔されなてないから、可愛いね」
シャルロッテは、その道に、「新しい始まり」を与えることを決めた。
彼女は、道の最も地味な一点に、土属性魔法を応用し、小さな、金の環を創り出した。そして、その環を、道の土に、静かに埋め込んだ。
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次に、シャルロッテ姫殿下は、光属性と時間魔法を融合させた。
彼女の魔法は、円環の道全体に、「道の土に触れた、全ての生き物の、幸福な記憶」を、光の粒子に変え、無限に反復再生させるように設定した。
それは、「この道は、ただの土ではない。愛の記憶という、永遠の宝を運ぶ輪である」という、新しい存在意義を与えるための、儀式だった。
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フリードリヒ王子が、訓練を終えて迷路に入ってきた。彼は、疲労困憊で、その円環の道を、意味もなく、ただ歩き続けた。
彼が道を一周するたびに、彼の心には、「幼い頃、シャルロッテに初めて抱きしめられた時の、温かい記憶」が、新鮮な感動と共に再生された。彼は、疲労を忘れ、その「愛の反復」に、深い安らぎを見出した。
「ああ……この道は、人生の、最も幸せな瞬間だけを、何度でも繰り返してくれる!」
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マリアンネ王女は、解析装置を見て、驚愕した。
「この円環は、魔力を増幅しているのではない! 『幸福感』を、時間と共に減衰させずに、無限に再生しているわ!」
シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「ね、お姉様。永遠ってね、一度あった、可愛いことを、ずっと忘れないってことだよ!」
姫殿下の純粋な愛の哲学は、「時間の超越」という、最も深遠な奇譚の構造に、「愛の記憶こそが、真の永遠である」という、温かい真理をもたらしたのだった。




